ヽヽヽヽヽヽ しばしばシュールレアリズム絵画の寓意とも読み取れる、象徴的なビジュアルの料理を発表し続ける成澤だが、そのクリエーションの源泉は、机上ではなく「生産地や自然の中にある」という。厨房で試作はほとんどしない。自らが食材の生まれるフィールドに出向き、食ヽすヽるヽこヽとヽのリアリズムに向き合うことで、自分にしかできない料理を模索してきた。これまで定期的に日本全国を巡っては、「食べることの本性とは何か?」という根源的なテーマを己の中に問いかける。 代表作の「土のスープ」は、極寒の信州の畑を眺めるうちにレシピが閃いた。標高1000メートル級の山陵で無農薬無肥料が徹底された、その畑で作られる野菜に惚れ込んでいた成澤は「この農家は、野菜だけではなく、土から作っているんだ。野菜が安全で健康なら、土も食べられるはず」という発想に結びついた。 2010年に、ラップランドで開催された食のイベントに参加した成澤は、トナカイを絞める現場の生々しさを目の当たりにする。生命をいただく残酷さと同時に、その尊さにあらためて目覚めた成澤は、イベント中に調理した肉料理の皿に、赤いソースで血が迸る情景を描いて見せた。今では、多くのシェフがそのビジュアルだけを模倣するが、成澤が伝えたかったのは、喰うことが時に精神的な経験であり、宗教的な行為でもあるというリアリズムだ。「見えないものをいかに料理で伝えるか」。それは成澤が一貫して料理に求める永遠の課題なのだろう。 かねてより「サスティナビリティ(持続可能性)とガストロノミー(美食)の融合」を掲げてきた成澤は、「100年後も人を幸せにできる料理を作りたい」と願う。そのためには、自然環境や先人の知恵である伝統的な食文化を守ることが不可欠だ、と。同時にいま思うのは「後進の料理人が継続的に活躍できる、社会的な環境を整えることも、自分に課せられた役割」と考える。 今年、4年がかりで制作し続けている自身の料理本が上梓される予定なのだそう。成澤の集大成を俯瞰できるのはうれしい限り。美食ファンはもちろんだろうが、これから料理界を目指す若い世代の、想像力のレシピにもなるはずだ。13©NARISAWA
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