SIGNATURE 2019 5月号
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へと出荷される。急速冷凍のものもあれば、乾燥品もあるが、かの地でそれだけ消費されているということは間違いない。 一方、松茸は日本に向かう。こちらは6月くらいから晩秋ごろまで、比較的長い間市場に並ぶ。傘の開いていない〝つぼみ〞もあれば、完全に開いた〝開き〞もあり、親指大からカラオケマイクのような大きさまで、ここに来ればあらゆる松茸がよりどりみどり。市場の商人に尋ねてみると、価格は小さいもので1キロ230元(約3000円)、大きなものなら300元(約5000円)。これが日本産のつぼみなら、出始めの相場は1キロあたり8万〜10万円は下らないだろう。 昆明空港の近くで、1982年から松茸の輸出を手掛けている『雲南山菌農業科技有限公司』の陸志雲さんに雲南省産松茸の特徴を尋ねると、「松茸は山の恵みだから、産地によって香りが違うんだ。昆明から西に180キロほど離れた楚雄市南華県の松茸は香りがよく、少し色が濃い。デチェン・チベット族自治州のシャングリラ産の松茸はあっさりして、色が白いのが特徴だね」と話してくれた。 野生のきのこは、山に入ってきのこを採る「きのこ狩人」と、山から市場までの「運び屋」と、市場や出荷の現場に立ち会う「売人」の三者の協業によって流通している。 陸さんは、日本への輸出向けに色白のシャングリラ産の松茸を扱っており、ルージーユンそれ相応の量を確保するために、多くの「きのこ狩人」を束ねているそうだ。なかでも松茸は夜に成長し、同時に香りも出てくることから、彼らが松茸を狩るのは深夜、山がしっとりと水気を帯びる頃。暗闇の中で松茸を採り、山を下りるのは深夜2時を回るという。 そこから「運び屋」が車を走らせ、昆明に到着するのは、その日の午前10時〜12時。到着した松茸は、鮮度が落ちないよう、すぐさま冷房の効いた部屋に運ばれる。 作業場では従業員が防寒着をしっかりと着込み、松茸の重さと大きさを測ってサイズごとに分別。一本一本ていねいに不織布に包んで梱包し、夜に発送、翌々日の午後2時には日本に到着するのだそうだ。 気になるのは日本産との違いだが、「品質はどれもいいよ。劣化するのは管理の仕方次第。日本産と香りに違いがあるとすれば、鮮度の違いだろう。日本まで届けるには、最低でも収穫から3日かかるからね」と陸さんは言う。そこでこの日、話の流れで、昆明市関平路にある陸さんのお姉さんが経営するきのこ料理レストランを訪れることにした。 時期がよかったのだろう、ショーケースに並んでいたきのこは全部で24種類。天麻など、漢方薬に使われるきのこも入荷し、これでもか!! と、きのこを入れて鍋にした。 ため息が出た。雄大な山の恵みが雲南の方々から集められ、すべてが眼前の鍋で煮込まれる。材料は、鶏のスープにきのこのみ。だが、鶏肉などいらない、むしろ必要ない。日本にもきのこ鍋を出す店はあるが、野生のきのこの香りに、菌床育ちのきのこが太刀打ちできるはずがない。 昆明人はきのこのシーズンとなると、値段は張っても、2度3度と鍋を食べに行くそうだ。その土地の季節の恵みは、土地の人の魂を輝かせ、明日への生きるエネルギーを呼ぶ。きのこは、昆明人のパワーの源でもあるのだ。 自然の恵みをいただくことは、どの国、いつの時代でも最高のご馳走である。しからば、できれば産地で食べてみたい。そこで次に目指したのは、「きのこの山」だ。36column 2少数民族の暮らす雲南省 中国人の多くは漢民族だが、中国には政府に保護されている56の少数民族がいる。雲南省で暮らしているのは25で、白族、納西族、哈尼族など、雲南省だけに居住している民族も。こうした多様性もまた、地域の文化をさらに豊かにしているといえるだろう。 昆明の中心部から1時間半以上車を走らせれば、寨と呼ばれる少数民族の集落を訪れることもできるが、時間がない場合、市内の『雲南民族村』を訪れるのも一案だ。観光地ではあるが、雲南省に暮らす少数民族の歌や踊りを見ることができる。ペーナシサイハニきのこ市場でよく見かける蜂の巣。目的は、中に入っている生きた蜂の子だ。小指の爪ほどの大きさで、妊婦など、栄養をつけたい人が買い求める。

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