あえて言おう。その賑わいは、原宿竹下通りである。人があふれ、果物と野菜があふれ、俎板の上で肉が弾む。月に一度は中国に通い、必ず市場に立ち寄る筆者だが、その中で最も血沸き肉躍る市場が、昆明の『篆新農貿市場』であり、その地位は揺るぎない。 ここにあるのは生鮮食材だけではない。窯で焼き上げたローストポークや、雲南省南部の傣族が作るスパイシーな焼き茄子の和えもの、水がおいしい建水地方の焼き豆腐や揚げたての蓮根餅、大鍋で煮込んだ山羊汁など、雲南中の名物が目移りするほど並んでいる。調味料などの加工品も豊富で、つまみ食いはエンドレス。食いしん坊なら、アドレナリンが出っぱなしになる楽園である。 では、なぜ楽園ができたのか。そのダイ治州は、亜熱帯気候でバナナやマンゴーなどの栽培がさかん。花食文化も根付き、料理はタイに限りなく近い。一方、北部のシャングリラ市は亜寒帯性気候で松茸の一大産地。標高は3000メートルを超し、裸麦や小麦を主食に、ヤクの肉や乳製品を加工したチベット料理が食べられている。 さらに雲南省は、中国で最も少数民族が多く住む地域だ。各民族に伝わる背景には、森林に恵まれ、雨量が多く、標高差のある複雑な地形を有する雲南省の風土がある。南を見れば、ラオスやミャンマーとメコン川を隔てて隣接する西双版納傣族自食文化は、中国人の大多数を占める漢民族にとって未知のものも多い。例えば、雲南省西部・大理の名物で、白族が作る「乳扇」というチーズがある。牛などの乳に酸液を加え、竹竿に巻き付けて乾燥させたもので、炙ってよし、揚げてもよし。濃縮された乳の味は、に置いた際、定住したモンゴル人によってもたらされたというのも興味深い。 市場の美味を数え上げたらきりがないが、へたなレストランに行くくらいなら、朝から晩までここにいたらいい。多様性のある雲南省だからこそ、省都・昆明の市場は、いつ訪れても豊かさであふれている。ペー食材のパワーここにあり!雲南の食、昆明の台所13世紀半ば、元朝が雲南地方を支配下雲南の火腿(ハム)と牛干巴(牛のハム)は必食。前者はしっとりとした生ハムのようで、金華ハムに比べて塩味が控えめ。後者は揚げて、和えものなどで食べる。
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