古都の音色あたごかざりふきちりののみやおもだかさいりょうせいりょうじだいかくじとげつきょう写真・中谷基文・藤本りお(アリカ) 鮮やかな緑が目にまぶしい初夏の嵯峨。京都の市街地から西へ、平安時代に嵯峨天皇が離宮を造営し、貴族がこぞって別荘を建てた風光明媚な地だ。その一帯で、毎年5月の第4日曜日に愛宕・野宮両神社の祭礼「嵯峨祭」の還幸祭が行われる。 「リーン、リーン」と涼やかな音を響かせ、2基の神輿を先導するのは、「剣鉾」と呼ばれる祭具。鈴の音が邪気を祓うという。竿の先に金属製の剣先と植物や霊獣を象った錺が付き、祭神名などの額が掛かる。その下に鈴が吊られ、吹散という布がなびく。 祭りでは、今年の先頭を務める「澤瀉鉾」を含め「龍鉾」「麒麟鉾」「菊鉾」「牡丹鉾」の5基の剣鉾が巡行する。鉾は神社の所有ではなく、氏子地域の各町内で大切に守られてきたものだ。文書での記録が残る最古の巡行は1883年(明治剣鉾の起源は地域の子孫繁栄を願う村祭りと考えられており、昭和初期頃まで神輿と剣鉾はそれぞれ異なる巡行路を進んでいたと伝わっている。 かつて農村地帯であった嵯峨では、屈強な村人自らが腰に結わえた袋に鉾を差し支え持っていたため、その足運びは力強く、左右の足で一歩ずつ、跳びはねるように進んでいく。腰をひねりながら外側から大きく足を回し、ドンと地に着くとその衝撃で鈴がリーンと鳴る。これを地元では「鉾を差す」と呼んでいる。鉾が回転する遠心力で鈴綱がピンと張ると澄んだいい音色が響くのだという。「5基の剣鉾がテンポよくそろって、リズミカルに鈴が鳴るとそれは気持ちがいいものです」と語るのは、65歳で引退するまで鉾差しを務め、現在は宰領として澤瀉鉾を支える今井滋基さん。長さ約6メートル・重さ約40キロの鉾を差すには、技術も力も必要で、一人前になるには少なくとも5年ほどはかかるという。 祭り当日、鉾は朝10時に清凉寺前の愛宕野々宮両御旅所を出発。大覚寺やJR嵯峨嵐山駅界隈を巡り、嵐山公園の中之島へ。今井さんによると祭り見物のおすすめはその帰路、渡月橋から御旅所を目指す道沿いだ。嵐山を背景に、真っ直ぐ延びる道を5基の剣鉾が進んで来るさまは、力強さを感じながらも雅できらびやかだ。「地元の方々から、差してと声がかかると皆はりきります。拍手をもらえるとうれしくなりますね」。金色の鉾と辺りに響く鈴の音に、通りすがりの観光客も足を止め、歓声を上げる。少なくとも200年以上続く剣鉾差しは、初夏の嵯峨で人々の目と耳を楽しませている。さがまつりりんけんぼこ第5 回 魔を祓う澄んだ鈴の音嵯峨祭の「剣鉾」47Photograph by Motoi NAKAYA Text by Rio FUJIMOTO(Arika Inc.) 16年)だが、寛政期に作られた鉾も残る。嵯峨祭京都市右京区嵯峨釈迦堂門前南中院町5(愛宕野々宮両御旅所) TEL:090-3708-2437(嵯峨祭奉賛会) 還幸祭の剣鉾差し:2019年5月26日(日)10:00~17:00頃 Sounds of Kyoto
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