バックナインに入る折、丘の上で少年とハム入りのフランスパンで昼食を摂った。 「君、プロゴルファーになるの?」 「いや、両親がゴルフなど職業にするなと」 「へぇ〜、いい両親だね」 「メルシー・ボクー、イジュウ」 少年が言った。なぜかフランス人はイジュウとしか読まない。インを付けるとアメリカの安っぽいモーテルに思えるのかもしれない。 フランスを訪れる度に思うのだが、フランス人を個人主義と言う人が多いが、彼等は世界の中で独特な誇り、国家愛を常に持つ人々であることがわかる。ゴルフが今日まで普及しなかったのも、彼等のイデオロギーのあらわれのひとつであったのかもしれない。 日本人は何かひとつが流行すると、猫も杓子も右にならえで、それをやりはじめる。山手線に乗ると、皆がスマートフォンを真剣に見ているし、子供と大人までがゲームをしている。こんな国がどこにあるのだろうか。果して大丈夫か、この国は? それにしてもフランス人がゴルフをするとは……。7Shizuka Ijuin一九五〇年山口県防府市生まれ。八一年、文壇にデビュー。小説に『乳房』『受け月』『機関車先生』『ごろごろ』『羊の目』『少年譜』『星月夜』『お父やんとオジさん』『いねむり先生』など。エッセイに美術紀行『美の旅人』シリーズ、本連載をまとめた『旅だから出逢えた言葉』(小学館)などがある。新刊に『琥珀の夢 小説 鳥井信治郎』(上下巻・集英社)、『文字に美はありや』(文藝春秋)、『日傘を差す女』(文藝春秋)。最新刊に、累計百八十五万部を突破した国民的ベストセラー「大人の流儀」シリーズ8『誰かを幸せにするために』(講談社)がある。伊集院 静
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