の舞台となり、同年9月に世を去った。全身全霊で芝居に打ち込み続けた生涯であった。 初代の数多い当り役は当代に受け継がれている。浄瑠璃の歌舞伎化作品では《熊谷陣屋》の熊谷直実、《盛綱陣屋》の佐々木盛綱、《逆櫓》の松右衛門実は樋口次郎兼光、《一條大蔵譚》の一條大蔵卿、《俊寛》の俊寛、《沼津》の十兵衛など、世話物では《法界坊》の法界坊、《幡随長兵衛》の長兵衛、《籠釣瓶》の佐野次郎左衛門、《佐倉義民伝》の木内宗吾、《河内山》の河内山などだ。 初代が得意としながらも上演が途絶えていた作品にも当代は光を当て、さらに新しい魅力を加えている。《伊賀越道中双六岡崎》の唐木政右衛門、《神霊矢口渡》の由良兵庫之助、《御存梅の由兵衛》の由兵衛などがそうだ。初代を目標とする当代の中に、初代は今も生き続けている。歌舞伎座楽屋で句作する初代 吉右衛門。写真提供:松竹株式会社鈴ヶ森の長兵衛=初代 吉右衛門昭和26年(1951年)8月梶蔦斎春仙(1886~1960年)画 早稲田大学演劇博物館蔵35一條大蔵卿=初代 吉右衛門「現代舞台藝華〈5〉」昭和29年(1954年)太田雅光(1892~1975年)画 早稲田大学演劇博物館蔵初代から伝わる鏡台で化粧をする吉右衛門。歌舞伎座楽屋にて。写真・鍋島徳恭
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