いちじょうじじょうざんしせんどうおうとつかがここ古都の音色ししおどし「鹿威」の生まれた庭風雅な余韻に静寂が際立つ文・山下崇徳(アリカ) 京都市の北東部、左京区一乗寺。剣豪・宮本武蔵が決闘を繰り広げたとされる「一乗寺下り松」から、閑静な住宅地を縫うように坂道を上っていくと、木々の緑に包まれるように小さな山門がひっそりと現れる。 ここは、江戸時代初期の武将・文人の石川丈山が隠棲した山荘で、現在は曹洞宗の寺院である詩仙堂だ。作庭家としても名を馳せた丈山は、この庭の設計を自ら手掛けた。秋の紅葉が特に知られるが、季節を問わずさまざまな花木が楽しめ、今の時期はキリシマツツジやミヤコワスレ、キョウガノコなどが庭に彩りを添えている。 寛政年間築の書院に座して、小高い山の斜面に広がる庭園を眺めていると、竹の笹を揺らす風や鳥のさえずりが全身を心地よく撫でていく。そして時折「カコーン……」と響く、鹿威の音。庭に響きわたる音の余韻が、静寂をいっそう際立たせる。 現在では、日本各地の庭園で見られる鹿威だが、その発祥はここ詩仙堂だと伝えられている。元々田畑を荒らす鹿や猪などの動物を追い払うために農民が使っていたものに、丈山が手を加え、音を愉しむ観賞用としての鹿威を考案したのだという。 音が鳴る仕組みは当時から変わらず、長さ1メートル強の太い竹筒に小川の水を少しずつ引き入れ、水がたまった重みで竹筒の頭が下がり、水がこぼれ落ちる。軽くなった竹筒が勢いよく元に戻った時に下の石を叩き、独特の高い響きが生まれるのだ。丈山が遺した漢詩には「我巨巨の声を発揮す」とあり、それは非凡な音色で、春の暁に鳴く鳥の声のようだと詠まれている。 ところでここは、中国の高名な36人の詩人の肖像と漢詩が掲げられた「詩仙の間」があることから、詩仙堂と呼ばれているが、本来の名前は「凹凸窠」。でこぼこした土地に建てた住まいという意味で、漢詩の大家だった丈山は中国の山水を思わせる景観を探し求め、緑豊かで起伏に富んだこの地に庵を結んだという。 山の小川を巧みに取り込んだ小さな滝や池など、自然の地形を生かした庭園は非常に立体的で、大海をイメージした白砂に、中国の山々に見立てられたというサツキのこんもりとした刈り込みも印象的だ。丈山の中国文化への憧憬が注がれた小宇宙。そこに今や日本庭園の象徴ともいえる〝鹿威〞が響く。その妙なる調和が、訪れる者すべてにほっと息をつかせるのかもしれない。第6 回45拝観料:大人500円・高校生400円・小中学生200円拝観休止日:5月23日http://www.kyoto-shisendo.com/Text by Takanori YAMASHITA(Arika Inc.) 詩仙堂京都市左京区一乗寺門口町27TEL:075-781-2954開門時間:9:00~17:00Sounds of Kyoto
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