SIGNATURE 2019 6月号
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うに調整する。 「桶の声を聞く」と、その作業を言われた。小さい頃から蔵が遊び場で、父の手伝いをしてきた左嵜さんだからこそ、菌の言葉を聞くことができるのであろう。 こうして手間暇をかけた鮒寿しは、華やかな香りと深い酸味を持ち、複雑な旨みを含んでいる。酒によし、飯によし。2年間守り育んだ菌が、自然への感謝を湧き上がらせる味となって、我々を魅了する。 この鮒寿しの可能性を広げようと、先 『京都兆』で修業される、特別な店だった。だが去年9月に台風21号が琵琶湖を襲い、『湖里庵』は全壊してしまったのである。途方にくれた左嵜さんは、1週間経って思ったという。 「琵琶湖の景色を借りているからには、よい点だけではなく、今回のようなことも受け入れ、伝えるのが住む者の役目だと感じました」 日々菌と話し、自然の力を感じているからこそ、出る言葉だろう。こう語る左嵜さんの瞳には、稀少な食文化を受け継ぐ者の、並々ならぬ覚悟が燃えていた。代の6代目が本店前の琵命名は、『魚治』の鮒寿しをこよなく愛した、狐狸庵先生こと、作家の遠藤周作である。た左嵜さんによる素晴らしき料理を、雄大な湖面を眺めながらいただけ 49鮒寿し魚治住所:滋賀県高島市マキノ町海津2304電話:0740-28-1011 営業時間:9:00~20:00定休日:火曜 http://uoji.co.jp/江戸時代から続く『魚治』の本店。この奥に蔵と作業所がある。本店でしか買うことのできない、お買い得品も用意されている。琶旅館湖『を湖こ望り里あむん庵場』を所つにく、っ料た亭。

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