老舗の復活を見守る大津の宿大 しん津は、東海道五十三次最大の宿場町であった。百人町と呼ばれ、殷賑を極めたゆえに、堂々たる古民家が多く残るが、現在はシャッター化が進んで、寂しい街並みが続く。 この地に、日本初の商店街ホテル『講大津百町』が誕生した。「街に泊まって、食べて、飲んで、買って」をコンセプトにした、町家をリノベーションしたホテルである。 商店街に沿う全7棟は、離れて存在する。北欧家具で統一された室内は、ゆったりとした時間が流れ、たった1泊でも、家と馴染み、暮らすように過ごすことができる。 部屋から一歩外に出れば、フロントやロビーはなく、商店街である。歩き回り、買い物をし、時には街の人と会話を交わす楽しみがある。ここは、「商店街の活性化」という目的も兼ねたホテルなのである。 かつて日本には、「伊勢講」や「熊野講」など、「講」と呼ばれる相互扶助組織があった。ホテルの名前には、誰かが困った時に手を差し伸べる、「講」という仕組みが持つ、古き良き日本人の優しさを復活させたい、という思いが込められているのだ。 寂れゆく商店街の中に宿をつくり、活性化させたい。また、1泊1人あたり150円を擬似財源化し、大津の商店街や町おこし団体などに全額を寄付する、日本初の「ステイファンディング」も組み込まれている。 心地よく宿に泊まることが、その街やいん人の役に立つ。それを意識できることが、真の〝快適〞ではないだろうか。さらにこの快適な宿に、期間限定ながら、あの『湖里庵』の料理がやってきた。それでは、春にいただいた料理を、いくつかご紹介しよう。 コースは、「氷魚の土佐酢かけ」から「鮒寿し茶漬け」に至る、全10皿である。 前菜では、味の濃い尻尾の切れ端と鮒寿しの飯を和えた「鮒寿しとも和え」がいい。酒泥棒で、花嵐純米大吟醸生原酒と合わせると、途端に香りが膨らんで脳幹を揺らす。一方、「びわます山芋漬け」は、ねっとりと脂がのったびわますの身と山芋の粘りが、美しく抱き合う。 鮒を数日寝かせたという、春ならではの「鮒の子つき(子まぶし)」を噛めば、ねっとりと甘く、プチプチと弾ける塩茹でした卵の塩気が、親の甘みを引き立てる。「鮒寿しの食べ方で、これが一番美味しいと思います」と、左嵜さんが勧めるのは、「鮒寿し餅」である。鮒寿しのひうお50右:鮒の子つき(子まぶし)。卵を塩ゆでにしてまぶす珍しい料理。卵を産むため、岸に寄ってくる3月くらいにつくられる郷土料理。中上:カルボナーラからヒントを得たという鮒寿しのパスタ。中下:滋養がしみじみと体に行き渡る鮒寿しの茶漬け。左:『魚治』7代目の左嵜謙祐さん。作家の遠藤周作による書が掛けられている。
元のページ ../index.html#46