巨 り囲む。客席は、舞台の進行に合わせて360度レコード盤のように回転し、客席とステージの間を湾曲したスクリーンが移動しながら場面を繋ぐ。観客が目にする舞台は、幕が下りたり暗転したりすることがなく、ストーリーは途切れない。 そんな画期的な構造の劇場『IHIステージアラウンド東京』が、現在の豊洲市場のすぐ隣の、何もない空き地に忽然と姿を現したのは、2017年3月のことだった。以来、日本有数の人気を誇る『劇団☆新感線』の演目を14か月にわたり連続上演し、70万人超という、日本の演劇史に残る観客動員数を記録するなど、大きな話題となっている。 そして先ごろ、この夏からの次期演目として、誰もが知る名作ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』を、この劇場専用に〝アップコンバート〞して公演することがリリースされた。クリエイター陣は、ブロードウェイで活躍中の超一流ぞろい。もちろんキャストも新たにオーディションで選ばれる。このニュースはブロードウェイ関連のニュースサイトなどでも盛んに取り上げられ、演劇だけでなくミュージカルファンや映画好きの間でも、改めてステージアラウンドとはどんな劇場かを含め、注目を集めている。この劇場を発案したプロデューサーのロビン・デ・レヴィータは、このシステム誕生の経緯を次のように話す。 「ステージアラウンド劇場は、故郷のアムステルダムで、オランダ史上で重要な、第二次大戦時の実話を描いたミュージカル『女王陛下の戦士』を上演するために設計しました。大な円盤の上に1300以上の客席。その客席をステージがドーナツ状に取実は上演の権利を得たものの、従来の劇場を確保することができませんでした。なんといっても予算が足りなかったのです。劇場を造ることはおろか制作だけで精いっぱいで、なんとか場所だけ確保できたのが、市の中心からだいぶ離れた飛行機の格納庫でした。その時、なぜ劇場建設に巨額の費用がかかるのか改めて考えたのです。劇場のためにはコンクリートの躯体を造り、セットを吊るすバトンを設置するだけで莫大な費用がかかります。ならば、セットなどが初めから地上に置いてあり、吊り下げないのなら低予算で可能ではないか?なら、セットにランプひとつ置いても場面転換のために装置が必要で、人も動きます。このような問題を解決したかった。このグラウンドセッティングによって、上演時のデコレーション展開もとても楽になりました。コンセプトに巨額の建築費をかけることなく、ユニークなステージングの機会をも生み出したと自負しています」 新制作バージョンを演出するデイヴィッド・セイントも、そのシステムの斬新さに驚きを隠せない。 「『女王陛下の戦士』を観劇したアムステルダム、そして東京のステージアラウンドでの、 システムについてロビンが続ける。 「回転する客席やカーブしたスクリーンといった仕組みだけがあってもダメで、ストーリーや音楽をこのシステムにどう統合させるかが鍵になります。60年以上の歴史があり、物語も音楽もきわめて有名なミュージカルをこ 通常の劇場のシステムに組み込み、新鮮な感動を観客に届けるのはとてもチャレンジングな仕事です。舞台制作では、プロジェクトごとの特性に伴ったアプローチと美的感覚が必要ですが、新制作の『ウエスト・サイド・ストーリー』においても、ステージアラウンド・システムは、作品の世界観と時代の視覚化に、すぐれた効果を発揮するでしょう。情景をさらに生き生圧倒的なドラマ展開、その驚くべき体験に私はノックアウトされてしまいました!この没入感は、やはり直接来場して観劇していただかなければなりませんが、あえていえば、演劇と映画の環境が融合したことで体験できるスペクタクルといえるでしょう」きとさせるために、新しいテクノロジーも駆使しています」 デイヴィッドもこの意見に賛同する。 「このシステムは、物語が壮大であればあるほど、そのポテンシャルをよりダイナミックに引き出し、作品の魅力を極限まで際141957年初演のブロードウェイ・ミュージカルを映画化し、空前の大ヒットとなった『ウエスト・サイド物語』(1961年)Photo: Everett Collection / AFRO2019年3月、オーストラリアのシドニー・ハーバーで開催された野外オペラ『ウエスト・サイド・ストーリー』より Photo: Prudence Upton ©PLAYBILL INC.
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