SIGNATURE 2019 7月号
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現在に生きるバウハウス 今年の1月、パリの見本市メゾン・エ・オブジェで「今年のデザイナー」に選ばれたセバスチャン・ヘルクナーは今、ドイツで最も注目される若手プロダクトデザイナーだろう。2012年に発表したベルテーブルは、吹きガラスの花瓶状の脚にメタルトップを取り付けたサイドテーブル。手作業で作られたデザイン・オブジェクトで脚光を浴びた。実際にスタジオで会うと、カジュアルで親しみを感じる魅力的なオーラを放つ。大学入学でフランクフルト郊外オフェンバッハに移り住み、38歳になった今も拠点を替えず、ほぼ同じスタンスを貫いている。 今年で200周年を迎えた、ドイツでも最も古い歴史を持つ家具メーカー『トーネット』。椅子には初代から番号がつけられ、今も生産が続く曲木技術の定番14番や、バウハウスのマルセル・ブロイヤーやミース・ファン・デル・ローエとの革新的で合理的なデザインなど技術の進化と改善により、時代をリードする椅子を作り続けてきた。そのトーネットから2017年、セバスチャンに118番目の椅子をデザインしてほしいとの依頼があった。 「バウハウスはもちろん、トーネットは学生の時に本社を訪ねました。その頃も手作業で行われている部分が多くて、特に木材やスチールを曲げる技術、パイオニア精神には感銘を受けたことを今でも覚えています」 老舗からの依頼は、天にも昇るうれしさだったと語るセバスチャン。382右から:トーネットとのコラボレーションについて熱く語るセバスチャン。/スタジオにある「118」のプロトタイプ。/フランクフルト・チェアのリベット留め部分。/スタジオにはオリジナルやプロトタイプの椅子が並ぶ。「118」は、曲木の技術や籐のネットなどトーネットの伝統を守りながらも、ハイテクを駆使し、戦後ドイツの学校や台所の定番のシンプルなフランクフルト・チェアのエッセンスを融合させている。老舗インダストリーを現代に甦らせる男118 Stuhl von Thonet

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