SIGNATURE 2019 7月号
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あまた傑出の証写真・村松史郎 文・加納雪乃 アラン・パサール、アンヌピック、ミシェル・ゲラール……。フランスガストロノミー界に君臨する3つ星巨匠料理人たちがこぞって絶賛するシャンパーニュメゾンがある。昨年、創業200年を祝った、ビルカール・サルモンだ。 シャンパーニュがビジネスとして投資家たちの関心を惹き、数多の名門メゾンが大企業の傘下に入る中、ビルカール・サルモンは、創業者のニコラランソワ・ビルカールとエリザベット・サルモン夫妻以降、7代にわたって独立家族経営を貫いてきた。そこには、祖先たちが綿々と築き上げてきた、妥協を許さず常に品質向上を目指すシャンパーニュ造りを守り、それを後世に伝えていく、という強い信念がある。 フランスのみならず、世界中のシェフやソムリエたちに愛されるビルカール・サルモンのシャンパーニュは、一流ホテルやレストランでよく見かけるので、大規模メゾンと思われているかもしれない。が、年間産出量は約200万本で、けっして多くない。生産量ではなくあくまでも品質を第一に掲げて、シャンパーニュ造りを行っているソフィ・のだ。 「どんなに腕のよい料理人も、最上の食材がなければ素晴らしい料理は作れません。シャンパーニュも同じ。我々がもっとも大切にしているのは、材料であるブドウの品質です」と語るのは、6代目当主のアントワン・ローランルカール。自社所有畑のブドウはもちろん、買い入れたブドウについても、それぞれの畑のテロワールを完全に把握し、最上の状態で収穫。すぐにプレスして発酵へ。メゾンの特徴の一つである低温長時間発酵により、ブドウの酸やフレッシュ感が保たれる。その後は、区画ごとの特徴を最大限に活かしながら熟成、そしてシャンパーニュの妙であるアサンブラージュ。「画家が、様々な色を融合して唯一無二の感動を生むのと同じように、我々も、様々な区画のワインを組み合わせ、アサンブラージュというアートで、我々にしか生み出せない感動を描き出すのです」。 職人気質で造られるビルカール・サルモンのシャンパーニュは、エレガントで味わい深いという共通項を持ちつつ、それぞれのキュヴェが異なる魅力を放ち、その強い個性と高い品質で、==フ=ビ世界中の料理人やソムリエらの関心を惹き、我々の五感を楽しませてくれるのだ。 その風味は、フランス料理だけでなく、和食ともみごとに共鳴する。「特に鮨のように、シャンパーニュ同様、素材自体のクオリティが重要でその魅力を昇華させた料理との相性は抜群です」とアントワン氏。ピノ・ノワールのエレガントな面が感じられる「キュヴェ・ニコラ・フランソワ」、繊細なフレッシュさが魅力の「ブリュット・ロゼ」……。ビルカール・サルモンの個性が際立つ各キュヴェと様々な鮨が奏でるセッションの素晴らしさを、ぜひ味わってみたいものだ。あかし1818年創業のビルカール・サルモン。生産量を抑えてクオリティを大切に、時間をかけて生み出す珠玉のシャンパーニュ。7代にわたる家族の情熱と誇りの結晶は、世界中のシェフやソムリエの瞳を輝かせる。星付きレストランを虜にするシャンパーニュ48上:サロンに掲げられた創業者夫妻の肖像画。下:マレイユ・シュール・アイにあるメゾン。広大な地下カーヴには、3~15年もの熟成を経て完成するシャンパーニュが、ボトルの中で静かに息づいている。「僕は、このカーヴで自転車の乗り方を覚えたんだよ」とアントワン氏。ピノ・ノワールが植えられている、メゾンに隣接するクロ・サンティレール畑。Photographs by Shiro MURAMATSU Text by Yukino KANOBillecart-Salmonビルカール・サルモン

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