SIGNATURE 2019 7月号
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ひとりじめはしない ギギィーッと鳴きながら、元気に触角を振り回す大きな伊勢海老が迎えてくれた。ここは志摩半島、英虞湾の南側、熊野灘に面した志摩市の和具漁港。のどかという言葉がぴったりの小さな港だが、日本でもっとも伊勢海老の禁漁期間が長い三重県で、ここは安定した水揚げ量を確保している。それは、12年前に始めた「仲間掛け」という漁法の成果なのだと、漁師さんが網を繕いながら話してくれた。 「仲間分け」とも呼ばれるこの漁法、一艘の船に船頭5人が乗り込み、持ち込む網は1人2帖まで。捕れた伊勢海老は船を降りたら公平に分け合うというもの。燃料と労働力を節約して、海の資源=伊勢海老を守り、値崩れの心配なく漁民全体の生活が安定する。エコノミー&エコロジー、意識の高い料理人たちから和具が注目されるのも納得だ。 美味しいものは、海の幸に限らない。志摩の中でも特に温暖で、ハウスメロンの栽培に適した浜島町南張地区を訪ねる。メロン農家『川口農園』4代目の川口芳幸さんは、花一つ一つに手作業で受粉してから50〜70日、1株に1玉だけ残して、糖度15パーセント以上、赤ちゃんの頭ほどの大きさになるまでじっくり手をかけてメロンを育てる。季節に合った品種を年に4回植え替えて収穫。年間で約1万個出荷する。そのほとんどは日本全国の顧客に直送されるため、なかなか市場に出回らない〝秘蔵っ子〞である。 川口さんは裏の山から間伐材を切り出し、ハウスの暖房に使う。石油よりも経済的だからという理由だが、実はこうして定期的に山に手をあごなんばり 54弾力のある身は引き締まり、ほのかな甘みのある伊勢海老は焼いても茹でても美味しい。三重県の伊勢海老漁は10月から4月まで。禁漁区も広げて積極的に水産資源を守る。和具では5月になればカツオ、夏はスルメイカ、黒潮に乗って多様な回遊魚が獲れる。網に掛かった伊勢海老や魚、海藻を網からはずす「網さばき」は、女性や高齢者中心の浜仕事。朝からおしゃべりに話の花が咲く。和具漁港三重県志摩市志摩町和具 電話0599-85-1120メロン伊勢海老

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