SIGNATURE 2019 7月号
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文化として伝えるかつお節入れることで、海の環境も守られている。山の栄養が川を静脈に田んぼを伝い、海に流れ込んでいるからだ。2016年、川口さんは間伐材の中でも優秀な杉の木を使って、ハウスの隣にカフェを開いた。昔から大工が多い「大工処」と呼ばれる浜島町で、宮大工の見習いをする友人たちが建ててくれた小屋。木の温もりあふれる川口さんのカフェは、今日も食べごろのメロンを堪能する客で賑わう。 志摩の食文化を知るなら、外せない体験ツアーがあると聞いて、大王町波切にある『かつおの天ぱく』の燻し小屋へ向かった。太平洋に面して切り立った岸壁の途中に佇む小さな小屋。天井の隙間から差し込む光が蒸籠の上で燻されるかつお節に、優しく降り注ぐ。迎えてくださった社長の天白幸明さんは、笑みの中にも鋭い眼光のある人だ。昭和25年に建てられたこの小屋で、「手びやま」製法と呼ばれる伝統の燻しを守っている。それは薪木をくべた窯の上でじっくり1か月かけてかつお節を燻す手法。 「歴史的な観点からすれば、かつお節は一般に流通する以前、神様に捧げる神聖な食べ物だったのです」。伊勢神宮の神饌に欠かせない一品として、さらに奈良の朝廷にも献上されていた波切のかつお節「波切節」。その伝統を受け継ぎ、かつお節の歴史をひもときながら、神と人との関わり、和食文化のすばらしさを、天白さんは伝えようとしている。いぶてんなぎりせいろしんせん55土鍋で炊いたご飯にたっぷりのかつお節をのっけて、醤油を少々かけるだけ。かつお節のスモーキーな香りが熱気と共に立ち上るかつお節ごはん。「手びやま製法」と呼ばれる燻し法。薪は志摩の山から切り出したウバメガシを使う。備長炭の原料として知られるウバメガシは火力が強く、長時間燃える。「そのおかげで先祖も神に捧げるにふさわしいレベルのかつお節を作れた」。かつお節を通して和食の歴史を語る天白幸明さん。かつおの天ぱく三重県志摩市大王町波切2545-15 電話 0599-72-4633 http://www.katuobushi.com鰹のいぶし小屋見学ツアーは完全予約制。「絵かきの町」として知られる大王崎に立つ白亜の灯台。頂上からは雄大な太平洋の眺望とサンセットが楽しめる。全国の参観灯台16基のうち2基を有する志摩市では、「灯台サミット」も開催された。安乗埼灯台と併せて訪れたい。グリーンのTシャツがトレードマークの『川口農園』の川口さん。創業1930年(昭和5年)。原種のメロンから種を採り、家族代々改良を重ねた。季節に合わせてオリジナル品種を植え分けている。コクがあり、甘いけれど後味さっぱり。エグみが少なくメロン嫌いの人にも好まれる。かつては皇室に献上、伊勢志摩サミットでも提供された志摩の名品。直営カフェでは、完熟して出荷が難しいメロンや規格外のメロンを救済して加工。食べごろのメロン、自家製のジュースやシャーベットが楽しめる(カード不可)。川口農園直営カフェ三重県志摩市浜島町南張499-13 電話 0599-53-1006あのりさき

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