CSignature19もとむら ゆきこ|毎日新聞論説委員。文系脳でも楽しめる科学エッセーで知られる。日本の科学技術の現状を掘り下げた『理系白書』で2006年、第1回科学ジャーナリスト大賞受賞。著書に『気になる科学』『科学のミカタ』(共に毎日新聞出版)など。 東京・お台場で開催中の「マンモス展」に行った。会場は親子連れでいっぱいだった。恐竜が好きな子どもは、もれなくマンモスも好きみたい。 「マンモスと恐竜はどう違うの?」と子どもに聞かれたお父さんが、少し考えて「マンモスは哺乳類、恐竜は爬虫類」と答えている。間違いではないけれど、大正解とも言えない。鳥みたいな羽毛と翼を持った恐竜の化石だって出ているし、目下、古生物学者たちが論争している。間違いないのは、マンモスと恐竜は、生きた時代がまったく違うということだろう。 マンモスが繁栄したのは、だいたい500万~150万年前。同じ頃、人類も誕生した。つまりわれわれの祖先は、マンモスと一緒に生きていた。一方、恐竜の最盛期は2億~1億年前。人類はカゲもカタチもない。両者が共演できるのは、SF映画の中だけである。 恐竜が歩いていたこの時代は、地質年代では「ジュラ紀」に当たる。地質年代とは、地球46億年の歴史を、その折々に繁栄した生物(の化石)をもとに分類した年表だ。ジュラ紀は、正確には「顕生代・中生代・ジュラ紀」。ティラノサウルスが絶滅したのは、その後に続く「白亜紀」。そして私たちは「顕生代・新生代・第四紀・完新世」に生きている。ダラダラと長い表記は、住所のようなものと思っていただければいい。「日本・東京都・千代田区・千代田」と書けば皇居と分かる、みたいな。 さて、完新世は約1万年前に始まった。この時代には、氷河期が終わって地球が温暖化した。大量の氷が解け、海面は100メートル以上、上昇したという。 この時代のスターはもちろん「人類」だ。人々は文明を築き、文字を発明し、宗教や哲学や科学を生み出した。とりわけ産業革命以降、暮らしは激変した。医学の発達で、寿命も延びた。1800年に10億人だったとされる地球の人口は、2011年には70億人を超えた。 便利になったのは事実としても、果たして私たちは幸せになったか? 人口がこのまま増えたら、食べ物は足りる? 地球はどうなるの? そんな不安も湧いてくる。 地球の年代は、完新世から「人新世」(anthropocene=アンスロポシーン)に移ったのではないか、という説が、科学者の間で真剣に議論されている。人が地球を大きく変えたと考えられているからだ。カンブリア紀の地質から三文・元村有希子 イラスト・羅久井ハナ葉虫の化石が大量に出土するように、人新世の地質からは、石油を燃やして出た二酸化炭素や、文明の副産物である、自然界には存在しない化学物質や放射性物質がたくさん掘り出されるのではないか。 振り返ると、地質年代の区切りには、その時代に繁栄した生物の大量絶滅も重なっている。このまま進むか、それとも立ち止まって完新世を生きるか。人類みんなで考えなくてはならない宿題かもしれない。olumnText by Yukiko MOTOMURAIllustration by Hana RAKUIスベカラクカガク第3回1「人新世」という未知の時代Science
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