倒していく。28歳で北海道に戻り、47歳の時、音威子府村へ。良質な木が豊富にあり、広大な作業スペースを確保できることが移住の決め手だった。 アトリエ3モアに入ると、長い廊下の壁に、ビッキの工芸作品がずらりと並ぶ。精緻に彫られた鮭やカレイ、エビなどに、アイヌ文様を独自にアレンジして施した「ビッキ文様」が緑色の顔料で浮かび上がる。一方、生涯で約120点作った、抽象的で不思議な魅力を湛えるモダンアート、《木面》シリーズも12点揃い、圧巻だ。 アトリエとして使った部屋には、晩年のシリーズ作品《午前3時の玩具》が展示されている。河上さんは言う。 「夜中の2時か3時に、ビッキから電話があって、『おい、ちょっと来いや』と言われて。それはよくあることでしたが(笑)、この時は作業台の上に作品がどんと置かれていた。それが、《午前3時の玩具》の第1作でした。夜行列車が夜中の3時頃に汽笛を鳴らして通り抜けるのを聞きながら作ったそう。ビッキはその頃、午前3時が大好きで。飼っていた猫に『サンジ』という名前をつけたくらいですから(笑)」 建物の一番奥には、音威子府駅前に立っていた《オトイネップタワー》が横たわる。高さ15メートルのトーテムポールだったが、風雪にさらされ、朽ちて自然に還ろうとしている。そこまで含めて、ビッキの芸術なのだ。木は彫られた時だけが美しいのではなく、滅びゆく姿もまた美しい――。きめん右:アトリエとして使用されていた部屋。上右:材木業を営んでいた河上實さんは、ビッキと深い友情で結ばれた村民の一人。「ここでは作品に触っても大丈夫です。それがビッキの主義でしたから」。上左:ビッキの遊び心を受け継ぐ看板。31上右・上左:ビッキが店内内装を手がけた札幌のスタンドバー『いないいないばぁー』が、アトリエ3モアに再現されている。「ビッキ文様」の作品やていねいに細工されたアクセサリーも並ぶ。エコミュージアム おさしまセンターBIKKYアトリエ3モア北海道中川郡音威子府村字物満内55TEL: 01656-5-3980*4月26日~10月31日開館(冬季閉鎖)bikkyatelier3more.wixsite.com/atelier3more
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