SIGNATURE 2019 8&9月号
30/84

神田日勝ニヤ板に浮かび上がる、黒い馬。光を宿した目に、視線が吸い寄せられる。濡れたように艶やかな毛は極めてリアル。隆起する肩まで緻密なタッチが続くが、その先で平坦になり、腰に至って突然、形自体がぷっつりと消えた。圧倒的な存在感の頭部と対照的に、虚空に漂う胴。画家・神田日勝の《馬(絶筆・未完)》だ。 北海道で農業と画業を両立させ、32年という短い人生を駆け抜けた画家。現在放映中のNHK連続テレビ小説「なつぞら」では日勝をモチーフとしたキャラクターが登場し、没後50年を迎える来春、東京での展覧会も予定されている。だが、全国的には十分にその名が知られているとは言い難い。日勝の画力に、作品が生まれた場所でじっくり触れようと、十勝地方の北西部に位置する、鹿追町に向かった。 大雪山の山並みを彷彿させる外観が目を引く『神田日勝記念美術館』。中に入るとギャラリースペースはアーチ型の天井で、神聖な礼拝堂を思わせる。 昭和12年、東京で生まれた日勝は8歳の時、一家で渡道。兄が東京藝術大学へ進学する中、中学卒業後は実家の農業を継ぎ、自身も芸術へ傾倒していく。公募展に作品を初出品したのは19歳。32歳で亡くなるまでの14年という短い画家人生で、毎年新作を発表し、入選を重ねた。 展示室を見回してみる。初期は暗い色合いで描かれた農耕馬や死んだ牛などの絵が多いが、30歳を迎える頃から、にっしょうしかおい鹿追Shikaoi美術界が最も注目する昭和の天才34上右:《自画像》(1956年頃)。上左:《ヘイと人》(1969年)。中右:本人が使用したペインティングナイフ。ベニヤ板にこれで絵を描くのが、神田日勝のスタイルだった。中左:アトリエの机の周りを再現。美術雑誌や画集が並び、大量の切り抜きやメモが壁に貼られていた。右:《風景(未完)》(1970年頃)。描きかけの絵も多数収蔵。Nissho KANDAベ

元のページ  ../index.html#30

このブックを見る