SIGNATURE 2019 8&9月号
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画面に色彩があふれ始める。特に心惹かれたのは、《ヘイと人》だ。板塀にはポスターや新聞紙面が写実的に描かれ、奥に一人の男が立っている。 学芸員の川岸真由子さんは言う。 「この男性の風貌は、当時雑誌などで盛んに紹介されていた米国人画家のベン・シャーンのドローイングを思わせます。また板塀が写った雑誌の切り抜きが、アトリエの壁に貼られていたこともわかっています」 《画室》シリーズの連作でも、ゴッホの黄色い椅子を思わせる、青い椅子を配置。床はクリムト作品の背景のように、モザイク状になっている。 「農業があるため遠方の展覧会に足を運ぶことは容易ではなかったと思いますが、美術雑誌や画集を通じて、当時の絵画の潮流、美術界の動向にセンサーを張っていたようです。そして作品の中でポップアートやアンフォルメルなど、多様なスタイルを試しています。目の前の事物を忠実に描く画家と考えられがちですが、実はそれだけではない。モチーフは身近なものだけれど、面白いと感じたイメージを積極的に取り込み、オリジナリティを加えてアウトプットしていったのです」 《馬(絶筆・未完)》では、メインのモチーフを左から埋め、部分的に完成させていく、日勝の特異な描き方がよくわかる。それは、区画ごとに順番に畑を耕していくという農作業と重なる。馬の胴の先にある余白に、彼はどんな未来を描こうとしていたのだろうか。35《馬(絶筆・未完)》(1970年)。『神田日勝記念美術館』の収蔵点数は、寄託作品を含み、100点弱。他に作品が収蔵されているのは、『北海道立近代美術館』と『北海道立帯広美術館』、鹿追町の『福原記念美術館』。神田日勝記念美術館北海道河東郡鹿追町東町3-2TEL: 0156-66-1555 kandanissho.com

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