SIGNATURE 2019 8&9月号
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めいどりんねてんしょううがたかむらとりべののべさんずきょうしゅんそうずこうやまきおのの古都の音色優しい鐘で招くお精霊さん六道珍皇寺「六道まいり」文・藤本りお(アリカ) 酷暑続く京都の夏。お盆行事として有名なのは8月16日の五山送り火だが、この時期が近づくと地元の人々が訪れる場所がある。〝六道さん〞の名で親しまれる六道珍皇寺。先祖の霊である〝お精霊さん〞を迎えに行くのだ。8月7日〜10日の「六道まいり」の期間中、人々は列を成して「ゴォーン」「ゴォーン」と境内の「迎え鐘」を撞く。鐘は鐘楼の四方の壁に覆われて目にはできず、組木に穿たれた穴から出る綱を引いて鳴らす独特のスタイル。冥土にも届くというから恐ろしい音を思い浮かべると、意外にも柔らかに反響する。 六道とは地獄道・餓鬼道・天道など、仏教でいう六種の迷界のことで、人間を含めすべての生き物は、これらの世界を輪廻転生すると考えられている。その分岐点であり生死の境・六道の辻が、寺の境内付近とされ、お盆にあの世から帰ってくるお精霊さんは、必ずここを通ると信じられてきた。 平安時代、一帯は鳥辺野と呼ばれる風葬・鳥葬地で、寺では亡き人をあの世に送る「野辺の送り」の法要を営んでいた。当時三途の川にもなぞらえられた鴨川を、東に渡ってすぐより寺領だったことから、寺の領域はまさに冥界の出入口と考えられたのだ。また、平安時代の公卿・小野篁が毎晩この寺の井戸を通って冥界に赴き、閻魔大王の補佐を務めた伝説も残るなど、冥途とは縁が深い。 お精霊さんを呼び寄せる「迎え鐘」は、寺の開祖・慶俊僧都が遣唐使になった際、自然に鳴る鐘とするために鐘楼の下に3年埋めておくよう留守番に伝え旅立ったろくどうちんのうじが、1年半ほどで寺の僧が掘り出して鳴らしてしまった。その音が唐にいた僧都のもとにも聞こえたことから、そんな鐘ならば、遥か彼方の十万億土の果ての冥土にも響くとする説話「古事談」が、伝えられている。六道まいりでは、境内で高野槇を買い求め、その枝にお精霊さんを乗り移らせて家に連れ帰る。昔は、さっそく家の井戸に高野槇を吊るし、お盆の準備が整う13日を待ったという。16日の五山送り火で再びあの世に戻られるまでの間、お精霊さんは里帰りされ、めいめいの家でもてなしを受ける。こうした精霊迎えの原型にあたる様式は、室町時代頃にはあったという。「お盆に家の前で迎え火を焚く風習は全国にありますが、京都では必ずお迎え鐘を撞いて、亡き親やご先祖様をこの世にお招きされるのです。私には人々の温かな報恩感謝と供養の想いが相まった優しい音色に聞こえます」と、同寺の住職・坂井田良宏さんは語る。この夏は京の人々と共に、先祖を偲び鐘を撞いてみてはどうだろう。しょらい第8 回43Sounds of Kyoto Text by Rio FUJIMOTO(Arika Inc.)六道珍皇寺京都市東山区大和大路通四条下ル4丁目小松町595TEL:075-561-4129http://www.rokudou.jp/六道まいり:8月7日(水)~10日(土)6:00~22:00 Sounds of Kyoto

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