SIGNATURE 2019 10月号
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しょうらいしごう今なお創建当時と同じ場所、同じ伽藍配置のまま、人々の命を受け止め続けている東寺は、1200年前の平安京の面影を残す唯一の寺院なのです砂原秀輝空海灌頂院は、伝法灌頂(密教の奥義を伝える儀式)、後七日御修法(国家安泰・玉体安穏・五穀豊穣・万民豊楽を祈願する儀式)を執り行う道場で、年に数日しか公開されない。2014年には、重文の「両界曼荼羅図」がここで特別公開された。(774〜835年)|弘法大師の諡号で知られる真言宗の開祖。寺域の西北部には大師の住房であった『大師堂』(西院御影堂、国宝、南北朝時代)があり、不動明王と大師像(国宝)が祀られ、お大師様信仰の中心となっている。行われていたのですが、明治以降、東寺で行われています。昔は天皇陛下に直接加持をさせていただいたのですが、いまは勅使から届けられた陛下の御衣に加持をいたします」。御修法には『御請来目録』に記されている密教法具、つまり弘法大師が唐から持ち帰った品々も用いられる。宝物館に収蔵されている国宝の文化財であるが、東寺では、それは今も、弘法大師の秘法とともに受け継がれる生きた宝なのだ。 弘法大師空海が大衆に真言密教の教えを広めるため造営した『講堂』には、有名な「立体曼荼羅」がある。大日如来を中心とした二十一尊の中で、空海がとくに強い思いを寄せたのは、不動明王であると、砂原執事長は言う。「お大師様は、中国ではあまり見向きもされていなかった不動明王にスポットライトを当て、日本最古のお不動さんをつくられました。煩悩を剣で断ち切るお姿。優しいだけでは人は説けない。怒りの力で、人を説くお姿です」。 秋、東寺には五重塔と紅葉の絶景を目指して、一日数千人もの観光客が夜間拝観にやってくる。今回のイベントでは、それを会員限定でゆったりと観賞することができる。しかも参加者は、弘法大師の修法を1200年受け継ぐ灌頂院を特別に見学し、執事長の砂原秀輝さんからの法話もいただける。全国のお大師様信仰の中心・東寺。平安時代以来絶えることのない、その祈りの核に触れながら見る紅葉の美しさは、ことさら心を打つはずだ。33ご

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