SIGNATURE 2019 10月号
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よういらかてんじくようふんぬ宇宙の真理を可視化した、圧巻の立体曼荼羅 文・沢田眉香子 写真・ 忠之 桓武天皇が東寺を創建した時に、本堂とした『金堂』は、天竺様と和様を加味した様式で、本尊の薬師如来のたたずまいとも、奈良時代の古様が踏襲されている。一方、空海が造営し、立体曼荼羅を安置した講堂は、空海にとっての、もう一つの〝本堂〞ともいえる。こちらは、エキゾチシズム漂う密教的な空間だ。中央に悟りを開いた五尊の如来。東に修行中の菩薩、西に忿怒の相で救済する五大明王、左右に梵天・帝釈天、そして四方に四天王。これら二十一尊の仏像は、すべて大日如来が形を変えて現れたものだという。 特に目を奪われるのが、不動明王像の迫力だ。下唇を噛んだ忿怒の表情は「弘法大師様」と呼ばれ、これが日本最古のお不動さん。全国の不動信仰のルーツといわれている。2019年春に大きな話題を呼んだ『国宝東寺空海と仏像曼荼羅』展(東京国立博物館)の際も、この不動明王像と大日如来だけは講堂を出ず、門外不出を守った。 大日如来という宇宙の真理を可視化した立体曼荼羅。その壮大なビジョンには、常人の理解を凌ぐものがあり、ただただ圧倒される。しかし砂原執事長は「大切なのは、ここで対面してもらうこと」と語る。「作家の井上靖さんは『天平の甍』を書かれた時、この立体曼荼羅をご覧になられて『自分はどこにいるのか。大日さんの所にいるのか、踏まれている邪気なのか』と自問されたといわれています。そのように、多くの人が学ばれているのです」。34東寺一山の本堂である『金堂』(国宝、桃山時代)の本尊「薬師三尊像」(重要文化財、桃山時代・慶長8年/1603年)木造漆箔。『講堂』(重要文化財、室町時代・延徳3年/1491年)の軒越しに『金堂』と『五重塔』の相輪(仏塔の最上部)を望む。

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