らくめいしょうずえわらじしょうぎ 懐石料理の老舗『瓢亭』。そのなりたちは古く、江戸時代の京都案内『花洛名勝圖會』に、すでにその評判が記されている。「ここは、もともと南禅寺さんの参道で、昔は門前茶屋としてお茶やお食事を出していたと言われています。表玄関に出した床几で、旅の人が草鞋を履き替えて休んでいかれた」と15代目当主の髙橋義弘さん。 いまもその創業当時の姿をとどめているのが、表玄関と「くずや」と呼ばれる茶室だ。四畳半と二畳台目の次の間は、あらゆる材が黒光りして、露地庭と多くの窓からの光がやさしい。長きにわたるもてなしの歴史に包みこまれて、自ずと心くつろぐ空間だ。日本を代表する瓢亭の懐石料理は、この草庵の粋とともに歩んできた。 四季を通して、献立の八寸に必ず盛り込まれるのが「瓢亭玉子」。白身はほどよい硬さ、黄身が半生という絶妙の茹で加減の玉子を、シンプルに味付けしたもので、江戸時代からこの店の一子相伝の名物と名高い。 「皆さん『昔から変わらない味』と仰るんですが、見た目が同じでも、素材も手法も変化しています。食を取り巻く環境の変化はめまぐるしく、常に変化を続けることが、時代を継承していくことの大切さだと思います」 創業以来の茶室「くずや」での呈茶、そして、名物・瓢亭玉子を添えた八寸に始まる懐石料理を体験する会員限定イベントは、瓢亭の歴史と現在を感じられる、貴重な機会となるだろう。40しょうげつか上:茶室「くずや」は、瓢亭の創業当時から親しまれている、築400年余りの貴重な建物。下右:永樂即全(16代)の茶碗でいただく抹茶に、瓢亭御用達の菓子匠『嘯月』のきんとん「錦秋」を添えて。左:「くずや 」の二畳台目の天井は掛込天井を加えた二段造り。篠竹も、杉の野根板も、古色を帯びた美しいツヤで黒光りしている。文・沢田眉香子 写真・ 忠之草葺き屋根の茶室で味わう、呈茶と至高の懐石料理
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