SIGNATURE 2019 10月号
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古都の音色少年の心を思い出させる「SLの汽笛」京都鉄道博物館 写真・伊藤信文・坂本綾(アリカ) 知る人ぞ知る地元の店を訪ねたりして下京の住宅街を歩いていると、時折「ホオーッ……」という耳慣れない音が聞こえることがある。少し甲高く、それでいて柔らかな響き。それはやがて、小体な商店や住宅が並ぶ路地の生活音に溶け、消えていく。 これは、『京都鉄道博物館』の構内を走るSL(蒸気機関車)の汽笛の音。賑やかな観光地を巡るだけでは気づかない、京の音風景の一つだ。 京都駅から西へ約2キロ、2019年春に開業した梅小路京都西駅の目の前に立つ『京都鉄道博物館』。かつてこの地にあった、SLの動態保存を主たる目的とする博物館『梅小路蒸気機関車館』の歴史を引き継ぐだけあって、現在もSL展示の充実ぶりは他を圧倒している。現在の展示機は合計23。そのうち動態、すなわち石炭と水があれば走行できる状態に整備・復元されているものも8機に上る。 先に触れた汽笛は、これらのSLが客車を牽引し、展示運転・体験乗車を行う「SLスチーム号」のものだ。展示運転は1972年(昭和47年)の『梅小路蒸気機関車館』開館当時から実施されており、時代とともに便数や走行距離などを充実させながら現在に引き継がれている。つまり京都の町は、1876年(明治9年)の官営鉄道開業以来ほぼ途切れなく、SLの汽笛を聞き続けてきたことになる。 現在の体験乗車・展示運転は片道約500メートル、往復約10分。牽引機は検修などの都合で日によって替わるが、「スワローエンゼル」の愛称で親しまれ『銀河鉄道999』の999号のモデルになったとされるC62形2号機、「SL北びわこ号」などを牽引していたC56形160号機など、鉄道史にその名を刻む機関車が、目の前で蒸気や煙を噴き出す姿に心が弾む。運転は10時から1時間に1〜2便で実施され、16時の最終便運行後は、転車台に進入し目の前でぐるりと方向転換する、迫力満点の風景を目にすることもできる。転車台を囲むように立つ重要文化財の扇形車庫と、そこにずらりと居並ぶSL群の勇姿も同館ならではだ。 館内にはほかにも、500系新幹線やトワイライトエクスプレスをはじめ、時代の先頭を走り抜けた列車の数々が静かに体を休め、昭和初期の駅舎など懐かしい鉄道施設も再現されている。 子連れに人気の施設だが、むしろ時代を背負って歩み続けた大人世代にこそ、ぜひゆっくりと訪れ、思い出とともにその真価を味わっていただきたい、京都の名所の一つだ。第9 回47Photograph by Makoto ITOText by Aya SAKAMOTO(Arika Inc.)休館日:水曜、12月30日~1月1日   (祝日および3月25日~4月7日、    7月21日~8月31日は水曜日も開館)※詳細はホームページをご覧ください。京都鉄道博物館住所:京都市下京区観喜寺町電話:0570-080-462http://www.kyotorailwaymuseum.jp/営業時間:10:00~17:30(最終入館17:00)Sounds of Kyoto

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