ダイナースクラブ60周年ロゴ制作のプロジェクトを託されたのは、東京藝術大学美術学部デザイン科「松下ゼミ」の研究生5人。学内で最終選考に残った10作品を、社員約300人が投票式で選考した。その結果、断トツで票を集めたのがこの3作品だ。金子明日香さん(以下、金子):クレジットカードが斜めに重なるイメージで、奥行きを感じさせるようにデザインしました。全体を斜めに少し崩すことで躍動感を加え、どんな使用シーンにも合うようあえてモノクロにしました。本多万智さん(以下、本多):クレジットカード会社は信頼関係が第一。60年築いた信頼をこれからも続けていく意味で「エンゲージ=約束」をイメージし、未来的でシャープなフォルムにしました。ダイナースクラブのロゴとの統一感も考え、爽やかさのあるブルーを選びました。山越真衣さん(以下、山越):歴史ある会社の60周年を意識して60の数字にDCの頭文字を入れ、右肩上がりの明るい未来をイメージした赤色を用いました。松下計教授(以下、松下):シンボルマークはそれ単体で見られることはなく、必ず「周辺の環境」があります。たとえばダイナースクラブのロゴと並んだときの相性や、名刺に印刷されたときのサイズ感なども意識するよう指導しました。 金子さんの作品は動きと躍動感、ポピュラーさと奥行きを感じさせ、本多さんの作品は未来感、疾走感がありダイレクトにイメージが伝わります。山越さんの作品はトラディショナルな印象でインテリジェンスを感じさせるデザインです。山越:今回の投票式の選考はとても貴重な体験になりました。それぞれ2案ずつ提出したのですが、自分で「こちらのほうが受け入れられそうだな」と考えたものが、意外と票が伸びなかったんです。金子:私も自分の2つの作品のうち、こちらが選ばれたのが意外でした。本多:ダブルミーニングなど、デザインに込めたメッセージを読み取ってくださる方が多いことにも驚かされました。山越:デザインをする側と見る側の間にあるギャップは必ずしも悪いことではないと思いました。その差を意識しながら互いをすり合わせ、ときに見る側の価値観を新しい次元へ引き上げる手伝いをする。それがアートであり、デザインであると改めて感じました。松下:デザインはもちろんクライアントやオーダーがあって発生するものですが、私たちの科ではデザインとアートをあまり分けて考えていません。デザインにもアートと同様に、個人的な感覚や嗜好の重要さがあると考えているからです。 デザインをビジネスやロジック、数字ありきで定量評価にすると物事は均一化してしまいます。社会的にもコモディティ(汎用品)化を問題視し、個人的・感覚的な思考を取り戻そうという動きがはじまっています。自分がいいと思うものを社会に転用し、自分をリトマス試験紙にして社会を読む。今後の社会ではそんな個人的感覚をどうピックアップしていくかが大事になると思っています。 いまはネットで数千円でダウンロードできるようなシンボルマークもあり、無料のイラストやデザイン素材も氾濫する時代。その中でプロのデザイナーの仕事とは何か、を我々は意識しなくてはならない。デザイナーはマークを作るだけではなく、そのデザインがどう使われ、どういう社会的価値を生むか、運用計画も含めて提案することが仕事なのです。 来年の東京オリンピックを例にしても、デザインやロゴマークは一般にも注目されるソーシャルな性格を持つものです。しかし、クリエーターとして自分の中に深く潜っていく作業をしていると、ときに社会での立ち位置を見失ってしまうことがあります。今回の企画では、若いデザイナーの卵たちにとって社会の中での自分の居場所を確認する、とても貴重な機会をいただけたと思っています。67本多万智さんのテーマは「未来の約束」。60年間築いた信頼関係を、60年後も変わらず応えていく「約束」を、2つの数字の結びつきで表現。成長を示す右肩上がりの傾きと誠実さを表す青色が特徴。「おかげさまで60年、次の60年へ」のキャッチコピーを冠したダイナースクラブ60周年ロゴは、東京藝術大学美術研究科デザイン専攻 修士1年の学生のデザイン案のコンペで審査され、最終5名10案から3案に絞り込まれた結果、金子明日香さんのデザインした「60年のその先へ」が選ばれました。これから60周年記念イベントなど、ダイナースクラブの各種メディアで使用されます。ご期待ください。Information60周年記念企画は、ダイナースクラブ ウェブサイトで順次ご紹介します。ご期待ください。www.diners.co.jp > 重要なお知らせ > ダイナースクラブ60周年金子明日香さんのテーマは「60年のその先へ」。クレジットカードを広角レンズで見たような図形のパーツを組み合わせ、60年のその先の未来へ続くトンネルのような、奥行きと遠近感を表現している。山越真衣さんのテーマは「DCのさらなる成長」。ダイナースクラブの頭文字から想を得たロゴ。フォントのセリフ(飾り)には本来、くさびや方向を示す意味があり、今後の進化への期待を込めている。ダイナースクラブ60周年ロゴは、「60年のその先へ」に決定!
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