CSignatureこうげばちるのしゃくとりげりつじょのびょうぶらでんしたんのごげんびわ 天皇の勅封によって守られてきた正倉院。歴史の中で、その時々の権力者が宝物を取り出すことはあったが、そもそも一般の民衆の目に触れるものではなかった。だが第二次世界大戦での敗戦を機に、状況が変わる。いまだ復興の途上にあり、国民の多くが貧しさに喘いでいた1946年10月、奈良帝室博物館(47年に文部省の管理下に入り、52年に奈良国立博物館と改称)で第1回正倉院展の開催が発表されると、交通事情や食料事情の悪い中、20日間の展示期間を通して約15万人もの観客が、日本各地から集まった。それほど多くの人々が、美に飢えていたのだ。日本美術の冒険 第58回シルクロードの東の終点、正倉院宝物に見る天平の美。奈良と東京で同時期開催文・橋本麻里 それから73年を経て、戦後2度目の即位礼を迎えた2019年、本拠地である奈良では、41件(うち初出展4件)を出陳する「御即位記念 第71回正倉院展」、そして東京国立博物館でも、御即位記念特別展「正倉院の世界―皇室がまもり伝えた美―」がと、東西で同時に正倉院宝物が大々的に公開されることとなった。 奈良では正倉院宝物の成り立ちと伝来に関わる宝物や、宝庫を代表する宝物が顔を揃える。中でも日本産のヤマドリの羽毛を貼り付け、唐美人の姿を描いた《鳥毛立女屏風》の全6扇が揃って公開されるのは20年ぶりのこと。また象牙を染め、文様を彫った《紅牙撥鏤尺》など、唐代の高度な工芸技術を伝える名品が多数出展される。 一方、東京では、東京国立博物館が所蔵する法隆寺献納宝物も併せての展示となる。教科書でもお馴染み、古代インドに起源を持つ五絃琵琶の唯一の作例として著名な《螺鈿紫檀五絃琵琶》や、ササン朝ペルシャに由来する下ぶくれのデザインがエキゾティックな《漆胡瓶》など、正倉院宝物を代表する名品が一堂に会する。olumnText by Mari HASHIMOTO20《紅牙撥鏤尺》 北倉13 唐時代・8世紀(染め象牙のものさし)1枚長さ30.3×幅3×厚さ1cm《鳥毛立女屏風》 北倉44 奈良時代・8世紀(鳥毛貼りの屏風)6扇のうち第2扇縦136.2×横56.2cmほうもつはしもと まり/日本美術を主な領域とするエディター&ライター。 永青文庫副館長。著書に『SHUNGART』(小学館)、 『京都で日本美術をみる【京都国立博物館】』(集英社クリエイティブ)。会場 : 東京国立博物館 平成館(上野公園)お問い合わせ 03-5777-8600 (ハローダイヤル)https://artexhibition.jp/shosoin-tokyo2019/《螺鈿紫檀五絃琵琶》 北倉29 唐時代・8世紀(弦楽器)1面長さ108.1×幅30.9cm※前期展示10月14日~11月4日しっこへい御即位記念会期 : 2019年10月26日(土)~11月14日(木)開館時間 : 9:00~18:00 ※金・土・日曜・祝日は20:00まで ※入館は閉館の30分前まで会期中無休会場 : 奈良国立博物館 東新館・西新館(奈良市登大路町50)お問い合わせ 050-5542-8600 (ハローダイヤル)www.narahaku.go.jp/御即位記念特別展会期 : 2019年10月14日(月・祝)~11月24日(日) ※前期(10/14~11/4)後期(11/6~11/24)開館時間 : 9:30~17:00 ※金・土曜、11月3日(日・祝)、4日(月・休)は21:00まで ※入館は閉館の30分前まで休館日 : 月曜、11月5日(火) ※ただし10月14日(月・祝)と11月4日(月・休)は開館2第71回正倉院展正倉院の世界-皇室がまもり伝えた美-Art
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