第七回 室町通(むろまちどおり)
京呉服商の屋敷が建ち並ぶ通りで、
雅な香りと建築美、中国料理を堪能
文・岩朝奈々恵(アリカ)
写真・木村有希
Text by Nanae Iwasa(Arika Inc.)
Photographs by Yuuki Kimura
「♪まる たけ えびす に おし おいけ……」
京都で古くから歌い継がれてきたこの「通り歌」は、
平安京より続く京都の“碁盤の目”を成す通り、
丸太町通、竹屋町通、夷川通、二条通、押小路通、御池通……といった道の名前を覚えるためのわらべうた。
一条一筋の道には、今も京ならではの文化が息づいている。
歴史に触れ、美味を見つけ、人と出会う。
そこには新しい古都の魅力が待っている。
京都には、古くから全国最大規模と言われる和装品の問屋街がある。高級絹織物の産地として名高い西陣で作られた織物は、京都の中心部にある室町の問屋街に集められ、吟味の後、全国へと配送された。この地が本格的な問屋街として発展を遂げたのは江戸中期頃。その全盛期には多くの使用人を抱える呉服の大店(おおだな)が軒を連ねた。今も京町家の呉服店が点在し、昔ながらの風景が残る。
問屋街の主幹を成すのが、現在もおよそ50の和装関連の店が軒を連ねる室町通だ。けっして広くはない幅の道を、呉服業関係の人々や車が忙しく行き交う。通りは京都駅や東本願寺をまたいで京都御所の一筋西を通り、約8kmにわたって南北に伸びる。
かつて「花の御所」と呼ばれた足利義満の邸宅もこの通りに建てられ、通りの名をとって室町殿と呼ばれた。つまりこの通りは、およそ240年間続いた室町幕府の由来となったのだ。今回はかつて室町殿が佇んでいた京都御所の付近から、南へと進んでいこう。
悠久の香りに思いを馳せる
京の香文化に触れるひととき
通りを歩いていると、ふわりと風に乗って微かな清香が。誘われるようにその香りをたどっていくと、香の老舗『山田松香木店』があった。享保年間に創業した店は薬種業に端を発し、1764年(明和9年)頃から、生薬の一種として取り扱っていた香木を専門に扱うようになった。
やがて、市内に数多ある寺院にも香を納めるようになったという。また、今では香木や香原料だけでなく、香道具や線香など香りにまつわるさまざまなものを扱っている。
仏教の伝来とともに日本に伝わった香。平安期頃には嗜好品となり、公家や貴族がこぞって着物に香をたきしめた。室町期には香道が誕生し、文化的な発展を遂げる。
再びその魅力が見直されつつある今日、『山田松香木店』では、作法に則って整えた香炉で香木をたき、その香りを深く味わう「聞香(もんこう)体験」プログラムを初心者向けに行っている。
伽羅(きゃら)や沈香(じんこう)といった貴重な香木の雅な香りは、日々の喧噪から解放し、心静かな世界へと誘ってくれる。「香りを聞くということは、自分の感覚に心を傾けてじっくり感じてみるということ。慌ただしい現代を生きている人たちにこそ、香りに意識を向けるひとときを過ごしてほしい」と、香炉から煙を燻らせながら火箸を片手に番頭の大杉直司さんが語る。
店を出てしばらくしても、香の薫りが身を包んでいた。店内で付いた移り香は、散歩の小さなお土産だ。古都の雅をまといながら、また道をそぞろ歩く。
『山田松香木店』を出て、南へ。御池通に近づくにつれ、京町家の住宅に混じり、呉服店が増えてきた。格子窓越しに反物が並んでいるのを眺めつつ進んでいると、小売りを行う店も何軒かある。プライベートな空間で着物をじっくりとあつらえることができる店、絞り染めをアレンジしたモダンなアイテムがそろうショップなど、個性際立つスポットに立ち寄りながら、散歩を楽しみたい。
元・呉服店の屋敷の趣を
そのままに
あまいもんとアートでひと休み
元・呉服商の店舗兼住宅をリノベーションして2009年にオープンした和菓子店『然花抄院(ぜんかしょういん) 京都室町本店』。室町通に面した店舗・カフェのほかに、中庭の脇を通り“おくどさん”が残る通路を抜けた敷地奥には、ギャラリーや菓子工房が併設されている。
その工房内で毎日焼くという「然」(ぜん)かすてら は、丹波黒豆を食べて京都で育った濃厚な鶏の卵を使ったしっとりした食感と丸い姿が特徴の人気菓子。カフェでは1人前にカットされた「然」かすてら のほか、“花も、菓も、然るべき姿へ。”との想いで素材を尊んでつくられた、季節限定のスイーツメニューなどを味わうことができる。
一服したあとは敷地内の「ギャラリー素形(すがた)」へ。建物の太い梁や柱を生かし、吹き抜けや大きな窓を設けた開放感あふれる空間には、国内外で活躍する現代アーティスト作品をはじめ、ジャンルを問わず個性豊かな作品が常時展示されている。かつての呉服屋の重厚な建築と合わせ、美をゆったり味わえるスペースだ。
古都で味わう異国情緒
華やかな北京料理に
魅せられる
室町通を進み、京の台所・錦市場へと続く錦小路通との交差点を西に少し。そこには、かつて呉服屋だったという一軒の洋館が佇む。中国料理店『膳處漢(ぜぜかん)ぽっちり』だ。
この店で主に供されるのは中国宮廷料理の流れを汲む北京料理。中華味噌の甘辛さがジューシーな肉の旨味を引き立てる北京ダックや、大きくぶつ切りにしたレンコンやタマネギ、豚の肩ロースが目を引く酢豚など、繊細な味わいを大切にしながら、素材の味をダイレクトに堪能できるよう大胆に調理された、華やかな品がテーブルに並ぶ。
約200坪の敷地に離れや蔵、中庭などが設けられた威風堂々たる屋敷は、欄間や柱などに竹や龍など中国風のモチーフを取り入れ、中国の骨董品やヴィンテージの家具などが置かれている。和洋中の意匠が絶妙に調和した空間は妖艶な雰囲気を醸し出し、旅人を迎えてくれる。
また、中庭にある2階建ての蔵を改装した『Barぽっちり』では、中国で夏期によく飲まれる酸梅湯(さんめいたん)やジャスミン茶を使ったカクテルのほか、ウイスキーなどを楽しむことができる。
エキゾチックな雰囲気と和の落ち着きをたたえた元・呉服店で本格中華に舌鼓を打っている間に、通りを宵闇が包み始めた。そろそろバーに席を移して、もう一杯愉しむとしようか。
ダイナースクラブ会員限定特典
『膳處漢ぽっちり』では、
ダイナースクラブ会員様限定で、
スパークリングワインをお一人様につき1杯ご提供。
【実施期間】
2017年5月9日(火)~2018年4月30日(月)
※2017年7月13日(木)~17日(祝・月)と、
2018年1月1日(祝・月)~4日(木)を除きます。
- *コース料理をご注文の方に限ります。
- *ご予約の際は、ダイナースクラブ ウェブサイトをご覧の旨、お伝えください。
- *お支払いはダイナースクラブカードをご利用ください。
- *本特典は同伴者様にもご利用いただけます。
室町通で訪ねたスポット
山田松香木店 京都本店
江戸期から続く香の老舗。高級な香木や香炉から香原料を使ったコスメ、印香など簡単に使えるお香まで品揃えは豊富。聞香や調香体験のほか、オリジナルのお香をあつらえることもできる。
京都市上京区勘解由小路町164
営業時間 | : | 10:00~17:30 |
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定休日 | : | 年末年始 |
075-441-1123
- ※ご来店の際は、ダイナースクラブ ウェブサイトをご覧の旨、お伝えください。
- ※お支払いはダイナースクラブカードをご利用ください。
然花抄院 京都室町本店
呉服店の屋敷をリノベーションした和菓子店。四季の移ろいを大切にした繊細な甘味とともに、併設のギャラリーでは気鋭のアート作品が楽しめる。
京都市中京区室町通二条下ル蛸薬師町271-1
営業時間 | : | 10:00~19:00 ※喫茶は18:30(L.O.) |
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定休日 | : | 第2・第4月曜 |
075-241-3300
- ※ご来店の際は、ダイナースクラブ ウェブサイトをご覧の旨、お伝えください。
- ※お支払いはダイナースクラブカードをご利用ください。
膳處漢ぽっちり
歴史感じる和洋折衷の館で、フカヒレをはじめ本格的な中国宮廷料理が味わえる。和洋中の調和を意識した空間の美しさは必見。中庭には蔵を改装したバーも。
料理 | : | 前菜盛り合わせ1,620円~、点心432円~、 フカヒレ姿煮(100g)8,640円~ 昼コース3,024円~、夜コース 9,504円~ (いずれも税込。ディナータイムのみサーピス料が別途必要) |
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京都市中京区錦小路通室町西入ル天神山町283-2
営業時間 | : | 11:30~14:00(L.O.)、17:00~22:00(L.O.) ※『Barぽっちり』は17:00~翌2:00(L.O.) |
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定休日 | : | 無休 |
075-257-5766
- ※ご来店の際は、ダイナースクラブ ウェブサイトをご覧の旨、お伝えください。
- ※お支払いはダイナースクラブカードをご利用ください。
2017.05.09