世界に認められた全7室のスイート 要庵西富家 世界に認められた全7室のスイート 要庵西富家

要庵 西富家
kanamean nishitomiya

京都の中心部に位置する、1873年(明治6年)創業の老舗旅館は、スイートルームのみの全7室。穏やかな時の流れを感じさせる客室と、遊び心あふれる懐石料理が、世界中から訪れるゲストの心をつかんで離さない。

文・新家康規(アリカ) 写真・橋本正樹
Text by Yasunori Niiya(Arika Inc.) Photographs by Masaki Hashimoto

 『要庵 西富家』は、2016年11月現在61か国、549の世界の一流ホテル・レストランが加盟する「ルレ・エ・シャトー」の会員。京都では唯一の存在である。また、2010年より連続して『ミシュランガイド』に掲載され、主にヨーロッパやアメリカなど海外からのゲストも数多く訪れる宿だ。明治期より続く古き良き和風の佇まいを生かしつつ、各部屋に現代的な感性を取り入れ、伝統と革新が調和した旅館として旅人をもてなしてきた。

 宿が位置するのは、富小路通と六角通が交わる京都の中心部。観光にもビジネスにも便利なロケーションの町は、かつて扇の骨を作る職人が多く住んだことから骨屋之町(ほねやのちょう)と呼ばれ、今も扇を扱う多くの老舗が店を構えている。

富小路通に面した格子戸を開け、奥へと続く細長いアプローチを歩み、玄関へ。引き戸を開けば、町なかとは思えない静寂の中、かすかな白檀の香りに迎えられた。焚かれていたのは、香の老舗・松栄堂のお香。甘い香りに気持ちが少し緩むのを感じる。正面の床の間には、近代琳派の画家・神坂雪佳の《小菊童子》が。床の間の軸や廊下に飾られた絵画など館内を彩るのは、先代が蒐集したものに加え、古門前通の骨董店で求めた美術品だという。いずれも控えめながら古都の華やぎを感じさせてくれる。

 靴を脱ぎ、中へと進めば、小さな玄関からは想像できないほどの奥行きの深さに驚く。2階建ての館には、一室ごとに趣が異なる7つの客室がゆったりと配されている。すべて本間に加え、次の間や踏込間などを有するスイートルーム仕様。部屋の名はそれぞれ源氏物語54帖にちなんで付けられている。

     

 1階の「葵」は、本間・次の間から庭が一望できる人気の部屋。ふと目に入る竿縁天井や明かり欄間など、数寄屋造りのさりげない意匠が旅の緊張を心地良くほぐしてくれる。雪見障子を開けると、葉を揺らす風とともに、小鳥のさえずりが室内に届く。

4畳の土間が印象的な「横笛」は同じく1階にある。韓国まで赴いて買い付けたという李朝時代の箪笥がペルシャ調絨毯になじむ。腰を下ろし、苔生す庭を眺める。低い視点から見れば途端に小さな庭に広がりが生まれ、より京の庭の奥深さを知ることができるだろう。ワインやシャンパンを味わいながらゆっくり向き合うのも悪くない。また、2階には、踏込から躙口(にじりぐち)をイメージした入口をくぐって入る「梅枝」、ル・コルビュジエデザインの椅子・LC3が置かれ、書斎としても使える座間を持つ「松風」などが。

 日常の喧噪から切り離された7つの個性ある空間が、旅人を待ち受けている。

日本旅館のもう一つの愉しみといえば食事。ここ『要庵 西富家』で供されるのは、遊び心あふれる月替わりの京懐石である。こちらの料理は、主人の西田和雄氏曰く「ワインや日本酒とのマリアージュを楽しみながら、懐石の世界に遊ぶキュイジーヌ」。エルメスの皿にぐじ(甘鯛)の造りを華やかに盛り付けるなど、機知に富む演出、それでいて「くずし過ぎない」確かな味わいを求め、ほかの宿から訪れる客も。部屋が空いてさえいれば食事だけの予約も受け付けているというから嬉しい。

 食材のほとんどは、ほど近くにある“京の台所”錦市場から仕入れ、旬の食材、京ならではの素材がふんだんに盛り込まれる。「創業の頃からずっとお世話になっているお店ばかり。融通を聞いてくれはるし、宿の好みもご存知なので、ええもんが入ると真っ先に届けてくれはるんです」と女将の西田恭子さん。

 またこだわる器は、窯元に発注するオリジナルの九谷焼の皿から、気鋭の京焼作家の手による特注の八寸皿、陶製コンロまで多彩。北大路魯山人の「食器は料理のきもの」という言葉通り、料理をより引き立てる器を追求している。

主人に、この宿で最も快適に過ごすためには? と尋ねると、「極論ですが、部屋から一歩も出ないこと。朝から部屋でシャンパンを開け、風呂に浸かり、本を読む……。時間に追われることなくゆったり過ごす。これが一番の贅沢だと思いますね」。2016年11月には、ゲストがより贅沢な時を楽しめる新しい客室「若菜」が完成。建材の一つひとつにまでこだわり、京の匠の技がこらされた部屋は専用の庭や土間を備えた別棟のスイートルーム。これまでの客室よりひとまわり大きな浴室も魅力的だ。明治期の面影を残しつつ、快適性に満ちた数寄屋建築。古都の風情を感じる庭や意匠。遊び心が嬉しい懐石料理……。京都の中心部にひっそりと佇む宿には、すべてが穏やかに繋がり合い調和する、極上の空間があった。

要庵 西富家

京都市中京区富小路通六角下ル骨屋之町562
1泊2食付き 1名様35,000円~(1室2名様ご利用時、税・サービス料別)
チェックイン 14:00、チェックアウト 11:00

※『要庵 西富家』では、ダイナースクラブカードがお使いいただけます。

ダイナースクラブ会員様 限定特典

ダイナースクラブカードで宿泊代をお支払いの方に、チェックアウト時に『要庵 西富家』特製の「旅のお守りと飴」をプレゼント。

2016.11.28

会員誌『SIGNATURE』電子ブック版 ライブラリ
会員誌『SIGNATURE』電子ブック版 ライブラリ

電子ブック閲覧方法はこちら

  • 記事に掲載の金額は取材当時の料金です。
  • 掲載記事は更新当時の情報になります。優待・イベント期間が終了している場合や、最新の店舗、価格、在庫状況とは異なることがあります。

古都の静寂 京の隠れ宿 第一夜は、2010年より連続して『ミシュランガイド』に掲載され、主にヨーロッパやアメリカなど海外からのゲストも数多く訪れる宿、要庵西富家をご紹介します。