銀座マティーニ 酒場の紳士になりたければ、
まずはマティーニを極めることである。
最上の一杯を求めて、
今夜もまた、銀座のバーを訪ねる。

『Ginza Zenith』 カクテルには、お酒と食に対する
知識と経験が反映されるんです

文・吉村喜彦 写真・飯田安国

人生を大きく変えた
銀座のバー体験

  新橋にもほど近い、8丁目のビル地下1階に『Ginza Zenith』はある。
 オーナーバーテンダーの須田善一(すだよしかず)さん(42歳)は、福島県伊達市生まれ。23歳のときから銀座の老舗バー『絵里香』で研鑽を積み、34歳で独立。ことし開店8周年になる。

 こぢんまりとしたカウンター。その端にはみずみずしい生花。店を開けたばかりの午後5時。凛とした、きれいな空気のなかで、須田さんは背筋をのばして立っていた。
 「ゼニスZenith」とは「天頂」や「頂点」という意味だが、「善一」を音読みした「ゼンイチ」にも由来している。

 須田さんは言う。
「最初はホテルマンになりたくて、福島市内のホテルに就職したんです。レストラン併設のバーが担当部署になって、バーテンダーという職業に興味を持ちはじめました。でも、ホテルには人事異動があります。サラリーマンですから……」

 だからこそ、なおさら職人として生きていきたい気持ちが強まっていった。

 そんなおり、京都で開かれたカクテルコンテストに出場するも、惨敗。レベルの違いを実感し、福島へ帰る道すがら「どうすれば勝てるんでしょう?」と先輩に相談すると、「じゃあ、ちょっと銀座に寄って帰ろうや」と提案してくれた。

 このひとことが、須田さんの人生を大きく変えることになる。

「『絵里香』『リトルスミス』『ロオジエ』『ガスライト』を駆け足で回って、帰ったんです。それぞれ、岸さん、保志さん、上田さん、毛利さん……と綺羅星のごときバーテンダーのカクテルを飲ませてもらいました」

 須田さんにとって、この銀座体験はインパクトがあった。
「顔と名前は知っていましたが、本や雑誌でしか見たことのないバーテンダー――そういうひとが実際にいるんだ、と思ったんです(笑)。全員、カクテルに真剣に向き合い、切磋琢磨していた姿が記憶に刻まれました」

 銀座はすごい街だ。このままじゃ、自分はダメだ……。

 そして『絵里香』のオーナー・バーテンダー中村健二さんを紹介してもらうことになる。

銀座の地で独立し、
自分のスタイルを追及する

 「中村さんから教えていただいたことの一番は『お客様に愛されるバーテンダーになること』。それと『カクテルはバランス』ということです」

 銀座で学んだことは?
「独立してからの方が勉強になることが多いです。自分でカウンターに立ちながら経営するというのは、けっこう大変ですね。でも、ここがスタートラインだと思うんです。結婚して子どもができて、やっと、親の気持ちがわかるのと似ているかもしれません」

 独立してから、カクテルの味は変わりましたか?
「はい。自分のスタイルを出しています。バーテンダーにはそれぞれ個性があり、一人ひとりカクテルに対する考え方が違います。マティーニひとつをとってみても、いろんなレシピがあっていいと思うんです」

 おのおの自分の芸風があるということですね。
「ええ。カクテルはお酒と食に対する知識と経験が反映されます。実際にいろいろ経験しないと美味しいカクテルは作れないです」
 きっぱりと言った。

 須田さんのマティーニは、ジンはビーフィーターのドライとウエットを合わせている。ヴェルモットはドラン・シャンベリー。
「ビーフィーターのウエットは少し洋梨のフレーバーがついているんです」
 ワイングラスの中で2種類のジン、ヴェルモットを入れ、そこにオレンジビターズを2ダッシュしてブレンド。
 この液体を、大きな氷がひとつ入ったミキシング・グラスにとろりとろりと注ぎ、ゆっくりやさしくステア。
 カクテルグラス全体をレモンピールの霧に包んで、すっとグラスをこちらに滑らせてくれた。

 飲む――。

 やさしいフレイバー。ほんのり甘みがある。ウエット・マティーニに由来するのだろうか、フルーティーな味わいがする。 ガーニッシュ(付け合わせ)の若桃のシロップ漬けを口に入れ、再び、ひとくち――。
 心とからだが、やわらかい春の陽射しに包まれるよう。桃とこのマティーニの相性は抜群である。心にくいばかりの、甘みと酸味のバランスがあった。

 この若桃は、須田さんの故郷・福島産だという。透明なマティーニを飲みながら、うっすらと桃の花が浮かびあがってきた。

『Ginza Zenith』
おすすめカクテル

「この季節、フレッシュなザクロを使ったジャック・ローズをお薦めしています」

80粒ほどのザクロを搾ってジュースを作り、
カルバドス(リンゴのブランデー) 40ミリリットル
グレナデンシロップ 数滴
レモンジュース 10ミリ弱
ライムジュース 数滴
これらをシェイク。美しい紅色のカクテルが出来あがる。

 ひとくち飲むと、品の良さにうっとり。繊細な酸味が決め手だが、甘みとのバランスがいい。ちょっとせつない早春の風が、からだの中を吹きぬけていく。余韻もすばらしい。

Ginza Zenith

東京都中央区銀座8-5-19 三幸ビルB1F
営業時間:17:00~26:00
(土曜、祝日は~23:00)
定休日:日曜

03-3575-0061

よしむら のぶひこ

1954年生まれ。京都大学卒業。サントリー宣伝部勤務を経て作家に。最新刊『ウイスキー・ボーイ』(PHP文芸文庫)が大好評発売中。その他の著書に『ビア・ボーイ』『こぼん』(ともにPHP文芸文庫)『マスター。ウイスキーください』(コモンズ)『漁師になろうよ』『リキュール&_スピリッツ通の本』(ともに小学館)『食べる、飲む、聞く 沖縄 美味の島』(光文社新書)など多数。『音楽遊覧飛行』のナビゲーターとしても活躍中。

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2015.03.09

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