アンテナショップもたのしい銀座、
まずは土佐の高知へ
銀座を歩くと、全国各県のアンテナショップが目につきます。
どちらのお店も、自慢の物産であふれていて、
店内を回るうちにその土地へ出かけたような気分になります。
テーマのある銀座街歩きシリーズ2回目は、
高知県のアンテナショップ『まるごと高知』を訪ねました。
文・山口正介 写真・長坂芳樹
Text by Syosuke Yamaguchi
Photographs by Yoshiki Nagasaka
土佐の高知の播磨屋橋ではないが、銀座1丁目の有楽橋の袂にも、高知がある。まあ、橋といっても今やその面影さえないのだが。
それはともかくとして、僕がこんなところにも高知が、といったのは『まるごと高知』という高知県のアンテナショップがあるからなのだった。ここには、高知直送の生鮮野菜などがふんだんに取り揃えられていて、その他の各種物産も品数は多い。
こんなところがあるのも銀座の魅力のひとつでしょう。銀座から世界へという流れもあるが、日本全国からの商品などがやってくるのも銀座なのだ。
高知といえば、その食材の豊富なことと、それがまたいずれも美味であることで知られている。つまり、食文化が多様であるということだ。代表格は柑橘類。みかんやゆずなど、それぞれに多種多様な品種が供給されている。また、野菜類も豊富だし、温かい気候とあいまって蜂蜜の品質にも高いものがあるらしい。
また高知は、お酒の強いひとが多いところだともいわれている。ということは、その需要を満たす供給もあるというわけだ。「酔鯨」や「司牡丹」は古くから知られているが、僕の最近のご贔屓は「文佳人」という銘酒である。いずれも飲み心地はよく、あっさりしているようでこくがある、といえるだろうか。
高知に「おきゃく」という風習があるのをご存じだろうか。一家の主が、「今日は、おきゃくだよ」というと、座敷が片づけられ、戸障子が取り払われて、山海の珍味がテーブルの上に所狭しと並べられる。
このときの大皿料理が皿鉢料理である。そして用意された食べ物と飲み物がなくなるまで、場合によっては何日も続くというものだ。これを称して「おきゃく」というのだが、面白いのは、見ず知らずの通りがかりのひとも参加できるということだ。だから「おきゃく」なのだ。
この『まるごと高知』の2Fに、その名も『TOSA DINING おきゃく』という店名のレストランがある。つまり、その精神を受け継ぐレストランなのだが、名前の由来とは異なり、高知特産の和紙を壁紙として、ウッディな内装で落ち着いた雰囲気のレストランである。
供される食材は、もちろん高知の特産品で、新鮮な産直であることはいうまでもない。高知料理に馴染みのないかたは、名物の鰹のたたき、それに皿鉢料理を手軽に楽しめる「彩りミニ皿鉢」などはいかがだろうか。美味しいお料理をいただきながらのお酒には、3種類のおすすめ日本酒が楽しめる利き酒セットなどが用意されている。
余談になるが、僕の住む町には高知出身のかたが多い。なんでも中央線沿線に住むひとが多いのだとも聞いたが、不思議なことだ。というか、人情に篤いかたが多いので、自然に友達になってしまうのかもしれない。
いずれも人づきあいが好きなかたがたで、郷里に戻られてからも季節ごとの食材を共通の知人宛に送ってくださる。実は僕もそのご相伴に預かっているのだ。
よさこい踊りなどの催しものも盛んなお国柄だ。美味しいものをいただいて、実際の食文化にふれると、この機会にぜひ高知に遊びに行きたいと思うようになるのは、決して僕だけではないだろう。
まるごと高知
東京都中央区銀座1-3-13 オーブ プレミア
03-3538-4365(ショップ)
03-3538-4351(レストラン)
●とさ蔵(B1F)/とさ市(1F)
営業時間:10:30~20:00(年中無休)
●TOSA DINING おきゃく(2F)
営業時間:
〈平日〉
ランチ 11:30~15:00(L.O.14:30)
ディナー 17:30~23:00(L.O.22:00/ドリンクL.O.22:30)
〈土・日曜、祝日〉
ランチ 11:30~15:30(L.O.15:00)
ディナー 17:30~22:00(L.O.21:00/ドリンクL.O.21:30)
※いずれも、ランチとディナーの間はクローズとなります。
[著者プロフィール]
やまぐち・しょうすけ
作家。映画評論家。1950年、作家・山口瞳の長男として生まれる。桐朋学園芸術科演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て、小説、エッセイなどの文筆の分野に転身。銀座の散歩はヤマハのサクソフォン教室、映画の試写などに通っているうちに「ほぼ日課」となる。主な著書に『正太郎の粋 瞳の洒脱』『山口瞳の行きつけの店』『江分利満家の崩壊』などがある。
*ギンザ八丁 たてよこ散歩 Vol.1「いまふたたびの銀座神社めぐり」も併せてご覧ください。
2017.01.23