食材の宝庫、
山形のアンテナショップで発見した
イタリアンの名店とは
「東京と神奈川以外の都道府県でもっとも多く行ったのは山形」
という筆者が今回訪ねたのは、その山形のアンテナショップ『おいしい山形プラザ』。
1F特産品物産店内をめぐったあとは2Fへ。
そこで待ち受けていたのは、心ひかれるイタリアンレストランだった。
文・山口正介 写真・長坂芳樹
Text by Syosuke Yamaguchi
Photographs by Yoshiki Nagasaka
※料理写真はイメージです。時季によってメニューは変更になります。
せんだって、銀座の眼鏡店で眼鏡を物色していたのだが、どうも気に入ったものがない。すると初老の店員が、それだったらこれこれの店にあるかもしれませんよ、と競合他社を紹介してくれた。この横のつながりが銀座の老舗同士の強みであり、利用者にはありがたいところなのだ。
つながりという意味では、各県が銀座に開いているアンテナショップにも同じような趣がある。ここで試食されたり、郷土の物産を購入されたりすれば、国元へのお客さんがふえるのでは、という心づもりだ。各県の出店も銀座カラーに染まっているということだろうか。
というわけで、訪れたのは山形県のアンテナショップ『おいしい山形プラザ』。実は数ある都道府県のうち、東京と神奈川をのぞけば、自分がもっとも訪れた回数が多いと思われるのが山形県だ。また、日常的にいただいているお酒も「東北泉」をはじめとして、「ひとりよがり」など山形産のものが多い。その淡麗で馥郁(ふくいく)とした広がりをもった味わいが好きなのだ。
山形県内でも東京寄りとなる上山温泉にはよく行った。父が将棋好きで、天童市は将棋の駒の産地である。そのご縁で紹介していただいたのが、近くの上山温泉だった。斎藤茂吉の出身地でもあり、茂吉ファンの母も喜んでいた。そして、上山を拠点として蔵王や出羽三山にも足を延ばした。
その過程で知ったのは山形県の食材のレベルの高さと豊富さだった。サクランボ、リンゴ、ラ・フランスは有名だが、ブドウの生産量も日本でトップクラスだとか。米沢牛があり、海産物の豊富なことでも知られている。最近では「つや姫」という米の新ブランドも人気だ。
お気に入りのお酒「東北泉」を見つけました。
清らかな水に恵まれた豊穣の土地・山形。日本酒はもちろん、
果樹王国の特性を活かしたワインやジュースも非常に豊富。
山形の代表的な特産品といえば蕎麦。
恵まれた自然の素材を使った麺は、どれも逸品!
1Fのショップで、それらの食材を確認してから2Fのレストラン『YAMAGATA San-Dan-Delo(ヤマガタ サンダンデロ)』へ階段を上がる。
山形を訪れるたびにご馳走になった、名物の蕎麦などの郷土料理をだすのかと思ったら、あにはからんや、生粋のイタリアンレストランである。山形は鶴岡市にこのレストランありと聞こえたスローフードの草分け『アル・ケッチァーノ』の流れをくむ本格的なイタリアンなのだった。
シェフの土田学さんは『アル・ケッチァーノ』で腕を磨いたあと、その実力を買われて銀座店をまかされている。食材は、流通がよくなった現在、迅速に山形から入荷し、ただちに調理されていく。メニューは『アル・ケッチァーノ』同様、ほぼおまかせ。これは、その日に入手可能な食材を最適な調理方法で供するためでもある。自分で選ぶのもいいけど、お店の人と相談しながら決めるのも一興かな。
この日は冬の旬、寒ブリのカルパッチョ。同じく旬の生野菜と温野菜。スパゲティーもそれぞれ選りすぐりの食材を使用した4種類から選んだ。食材が新鮮であることはもちろんだが、驚いたのは、その味付けの繊細さである。
えてして外食の味付けは濃いめになるものである。取り敢えずの満足感が得られるからだ。しかし、『サンダンデロ』の味付けは極力薄味である。それは食材の持ち味を充分に味わっていただきたいということと、塩分や脂分の過剰摂取を敬遠するからである。優しい味付けは食べる人の健康も考えられているのだ。どの料理もデリケートで、舌が踊り、口が喜ぶ、というものであった。
場所柄、近所はにぎやかなのだが、その風情は隠れ家のようである。失礼を省みずに書けば、なんでこんなところにこんな名店が、という感じだった。いや、もしかしたら、すでに知る人ぞ知る、有名店なのかな。
※ランチコースのスパゲティは、通常1品です。
おいしい山形プラザ
東京都中央区銀座1-5-10 ギンザファーストファイブビル1F・2F
03-5250-1752(1F特産品販売)
03-5250-1755(2Fレストラン)
●特産品販売フロア(1F特産品販売)
営業時間:10:00~20:00
定休日:年末年始
●レストラン『YAMAGATA San-Dan-Delo
(ヤマガタ サンダンデロ)』(2Fレストラン)
営業時間:
11:00~15:00(L.O.14:00)
18:00~23:00(L.O.20:30)
※ご予約の受付は15:00~承ります。
定休日:月曜、年末年始
[著者プロフィール]
やまぐち・しょうすけ
作家。映画評論家。1950年、作家・山口瞳の長男として生まれる。桐朋学園芸術科演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て、小説、エッセイなどの文筆の分野に転身。銀座の散歩はヤマハのサクソフォン教室、映画の試写などに通っているうちに「ほぼ日課」となる。主な著書に『正太郎の粋 瞳の洒脱』『山口瞳の行きつけの店』『江分利満家の崩壊』などがある。
*ギンザ八丁 たてよこ散歩 Vol.2 「アンテナショップもたのしい銀座、まずは土佐の高知へ」も併せてご覧ください。
2017.02.28