銀座の外堀通り、
「わたしたち」のお店で沖縄の風にふれる
銀座1丁目、外堀通りに面して店を構える『銀座わしたショップ本店』。
いちどは覗いてみたいと思っていた沖縄物産の店である。
「わした」とは「わたしたち」という意味だと知って、ますます親近感がわいてくるではないか。
今回は束の間、沖縄の魅力を探ってみたい。
文・山口正介 写真・長坂芳樹
Text by Shosuke Yamaguchi
Photographs by Yoshiki Nagasaka
沖縄で夏の季節風、真南風が吹くころ、僕はいつも細野晴臣の『トロピカル・ダンディー』を聴く。いまだに愛聴盤であり、繰り返し何度聴いたかわからない。思えば、沖縄には音楽から入ったのだった。
ふとしたきっかけで、沖縄を代表するシンガーソングライター、佐渡山豊さんの最初の東京公演を聴いている。そのとき、沖縄についても色々と教えてもらった。
細野晴臣さんや久保田麻琴さんの音楽から、沖縄の独創的な音楽を知り、『ハイサイおじさん』を演奏する地元の喜納昌吉のことを教えられた。それから沖縄民謡の大御所たちの音楽を聴いたり、「ネーネーズ」など新しい郷土色豊かな音楽も聴き漁ったりしたのだった。
そして、なんといっても沖縄といえば、その料理だろう。
音楽を通して知りあった連中が、都内にある沖縄料理の店を紹介してくれた。
そこで供される料理の数々にも魅了されたのだった。海ブドウや島ラッキョウを肴に飲む泡盛の味は格別のものがあった。
そんな沖縄の食や沖縄ガラスなどの民芸品を扱うアンテナショップ(沖縄物産展)が銀座にあるので、梅雨の合間のある日に出かけてみた。
まずは豊富な泡盛の在庫が嬉しい。最近では入手困難ということで、なおさら人気がでている幻の泡盛も陳列されていた。しかし、お店の一押しはもう少し別の銘柄で、まだまだ知られていない美味しい泡盛がたくさんあった。
そこで43度というアルコール度数の古酒を、お猪口に半分ほどいただいた。口に含んではいけない。すぽんと喉に流し込む、というよりは投げ入れるのだ。
一瞬の間があり、胃の腑から喉にかけて熱いものが立ち上がり、陶然とした気分になる。これを現地では何度も繰り返すというのだ。
タコライスソース、パイナップル、もずくなど、沖縄グルメ盛りだくさんの『銀座わしたショップ』1Fフロア。奥にはコスメティックコーナーも。
大人気の泡盛コーナー。お客様からのリクエストに応じたお酒を置いているというだけあって、バラエティに富んだ品揃えが魅力。
そういえば、かつて沖縄を旅したことがある方から、強烈な泡盛の一気飲みのあと、快晴のもと、白砂の浜辺を歩くほど、気分爽快になるものはないと教えられていた。なるほど、この酔心地には格別のものがあり、他とは比べものにならない。
ご存じのように泡盛は長粒米によって醸される蒸留酒であり、長期の保存がきく。その長熟期間はワインやウイスキーを上回るもので、味はより一層まろやかになり、香り豊かなものになるらしい。現在は麹などにも色々と工夫をほどこし、各種の風味を味わうことができる。
海ブドウや島らっきょうなど、泡盛にあう肴もあれこれあるが、優しい味付けのモズクやモズクのキムチ風味もうってつけである。
そんなことで、気分が高揚した僕は、工芸品を陳列した階下に行くと、これもやはり沖縄を代表する沖縄風アロハシャツとでもいえる「かりゆし」の試着に挑戦してみた。生地に沖縄の芭蕉布や琉球紬などを使用している高級品は、着心地もよく、風通しもよい。やはり気候風土が生んだものといえるのだろう。
さらに調子に乗った僕は、弾けもしないのに三線を手にとると、見よう見まねで弾いてみるのだった。
これも心地よい泡盛のなせる技だとお許しいただきたい。
実は家の最寄りの駅前にあるジャズ喫茶の店主が大の沖縄ファンで、泡盛もさることながら、メニューにも沖縄名物のスパムやタコライスを揃えていて、週に一度は通っている僕にとって沖縄料理もなじみ深いものだったのだ。
私事になるが、最近、僕よりも年長の従兄弟が単身、沖縄に移住した。それまでは北関東に長く住んでいたのだが、老後はのんびりと過ごしたいということなのだろう。
おそらくは熟考の上の決断だと思う。それほど住んでみたい土地柄ということだろう。僕も機会があったら、この従兄弟を訪ねてみたいと思っている。
銀座わしたショップ本店
東京都中央区銀座1-3-9 マルイト銀座ビル1F・B1F
営業時間 | : | 10:30~20:00 |
---|---|---|
定休日 | : | 年始 |
03-3535-6991
[著者プロフィール]
やまぐち・しょうすけ
作家。映画評論家。1950年、作家・山口瞳の長男として生まれる。桐朋学園芸術科演劇コース卒業。劇団の舞台演出を経て、小説、エッセイなどの文筆の分野に転身。銀座の散歩はヤマハのサクソフォン教室、映画の試写などに通っているうちに「ほぼ日課」となる。主な著書に『正太郎の粋 瞳の洒脱』『山口瞳の行きつけの店』『江分利満家の崩壊』などがある。
*ギンザ八丁 たてよこ散歩Vol.7「見番通りを歩けばふと見つかる、ビルの屋上の隠れ家とは?」もあわせてご覧ください。
2017.07.25