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目利きが選ぶアレやコレ
第15回:何度も読み返す人生のバイブル

イラストレーション・naohiga

何度でも読み返したくなる一冊というものがある。時に寄り添い、時に姿勢を正してくれる一冊とは、まさに人生のバイブルと言ってよいだろう。目利きたちの運命をも変えた究極の一冊を伺った。

01 Takanori NAKAMURA

世界の味を知り尽くす
コラムニスト

中村孝則

食を題材に生きる本質を炙り出す一冊。
読むたび、思考の可動域が広がる

美食とは何か。人は何を食べるのか。食とは人間の飽くなき欲求の表れで、本質をむき出しにしてしまうもの。開高健の『最後の晩餐』は、凄まじい取材力と考察で食にまつわる人類の生き様をも考えさせてくれる一冊なんです。

SDGsが叫ばれ、食するものや表現にも制限がかかりがちな昨今、美食とは何か考える際に、立ち位置を確認させてくれる。また、表現に行き詰まった時、読み返せば思考の可動域を広げてくれる本でもある。

初めて手にしたのは80年代。これほど食に関わる人生になったのはこの本の影響が少なからずあったかもしれません。本質を掘り下げていくやり方は社会問題、環境問題にも通じ、今の時代、再評価されて然るべき一冊と言えるでしょう。

Takanori NAKAMURA

ファッションからカルチャー、ガストロノミーからワイン、シガーまで、幅広くラグジュアリーライフをテーマに執筆するコラムニスト。2013年から「世界のベストレストラン50」、並びに「アジアのベストレストラン50」の日本評議委員長を務める。

Instagram @officedandynakamura

02 Towako KIMIJIMA

奇跡の57歳。
美の未来形を提案するカリスマ

君島十和子

不屈の精神と知的な冷静さ。
勇気をもらったノンフィクション

嫁いだ際に持参した書籍が400冊。幼少の頃から手放せないものの一つが本でした。けれど、潔く断捨離を敢行。手元に残った本はどれも50歳を越えたターニングポイントに生き方や働き方を導いてくれるものになりました。

なかでも、村木厚子さんの『あきらめない 働く女性に贈る愛と勇気のメッセージ』(日経ビジネス人文庫)は涙なくして読めない一冊でした。霞ヶ関のエリート女性が虚偽公文書作成の濡れ衣を着せられたノンフィクションです。検察を相手に無罪を証明できたのは、日頃から精緻に仕事のメールや文書を整理していたからこそでした。

独房の中でも諦めることなく、そして罠にかけられた相手にも恨み言を言わない。その姿勢が生きるとは、働くとはどういうことかを教えてくれたのです。凛とした女性の生き様。それが私にはとても響く一冊となりました。

Towako KIMIJIMA

1966年生まれ。モデル、女優を経て、現在はスキンケアブランド「FTC」クリエイティブディレクター。その美しさから、美のカリスマとしてコアなファンを魅了し続けている。今年4月、『アラ還十和子』(講談社)を出版。ライフスタイルから美への姿勢などを赤裸々に綴った内容が反響を呼んでいる。

Instagram @ftcbeauty.official

03 Oscar BREKELL

日本の心をこよなく愛する
スウェーデン人初の日本茶伝道師

ブレケル・オスカル

世界で愛される名著。
「茶の本」は人生のあり方を教えてくれた

岡倉天心の『The Book of Tea』はまさに僕の人生のバイブル。東洋の文化や思想を海外に伝えるために書かれたもので、原本が英語なのです。初めて読んだのは思春期真っ只中の高校生の時でした。

装飾に美を見出す西洋文化に対し、削ぎ落として美を際立たせる東洋の思想。産業革命の時代に古きよき文化をいかに継承してゆくか。それは生き方を模索し、お茶を飲み始めた僕にとって運命の一冊となりました。初版から100年以上経った今でも、インスピレーションを与えてくれ、読み返すたび、自分の原点を思い起こさせてくれます。

過日、フランス語版が出版される際に、序文を書かせていただいたことも、不思議な縁を感じさせてくれる一冊です。日本語訳が難解だとよく言われますが、今の時代にこそ、価値ある一冊だと僕は思うのです。

Oscar BREKELL

1985年スウェーデン生まれ。日本茶に魅せられ、2010年、岐阜大学に留学。2014年、合格率30%の狭き門と言われる日本茶インストラクターの資格を取得。農林技術研究所 茶業研究センターの研修生などを経て2018年独立、現在は“日本茶の伝道師”として普及に努めている。

Instagram @brekell

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さまざまな分野で活躍する目利きたちによるコラム【目利きが選ぶアレやコレ】。今回は目利きたちの“何度も読み返す人生のバイブル”をご紹介。