Special
イラストレーション・naohiga
Illustrations by naohiga
誰もが簡単に“いい写真”を撮れる時代にあって、“心に残る一枚”とは、ことさら意味を持つのかもしれない。目利きたちの“とっておきの一枚”。そこにはやはりとっておきのエピソードがありました。
世界中から予約が殺到
ガストロノミー界の風雲児
米田肇
美意識の原点の一枚。
ここから自分の料理が始まった
三つ星を取り、連日満席の多忙を極めていた2008年の年末。感性を再確認しようと、フランスの友人の店へ研修に行ったんです。そこで、自分の料理の写真を見せてみると「これは学んだ料理をアレンジしただけだ」と……。帰ってきてからも、その言葉が頭から離れませんでした。そもそも外国であるフランス料理をつくれば、結局は誰かの料理になる。
ならばと、和食の奥深さを知るために禅宗や茶道までひもといたけど、それも千利休の美意識になる。自分の美意識とは何か……と考えた時、幼少期、春に植物が一斉に芽吹いてくる瞬間を見たこと、川の中で半日を過ごしていれば、水の中の生き物と一体になっていられたこと。そんな美しい体験が蘇ってきました。
“とっておきの一枚”は、僕がカラスを相手にしばらく喋っていた様子を両親が写真に収めたもの。自然と調和する心地よさ、そんな自分の原点を思い出させてくれるのがこの一枚なんです。
Hajime YONEDA
1972年、大阪府生まれ。電子部品メーカー勤務から1998年、料理人に転身。日本、フランスで修業を積み、2008年『Hajime RESTAURANT GASTRONOMIQUEOSAKA JAPON』を開店。当時、ミシュラン史上世界最短の1年5ヵ月で三つ星を獲得する。2012年、店名を『HAJIME』に改め、最も予約の取れないレストランとして日々至福を提供し続けている。
Instagram @hajimeyoneda
マーケティングスペシャリスト
そして現代アーティスト
ナカヤマン。
NYのブルックリン橋で撮ってもらった
息子との思い出
“とっておきの一枚”は、NYに半年ほど滞在した際に、当時小学5年生だった息子を春休みに呼び寄せ、現地のスクールに通わせていた時のものです。学校の行事でブルックリン橋を渡っていると、先生が手を繋いで歩く二人の後ろ姿を撮ってくれた。それは、「そろそろ6年生になるから手を繋ぐのは恥ずかしいかも」と息子が言いづらそうに切り出した瞬間でした。
ある意味で大人になるターニングポイントを、思い出になる景色と共に切り取った一枚。昨今は、誰もが簡単にスマートフォンで撮影して膨大なデータを所有するようになっています。データの量が増えることに反比例して、それを見返す機会は減っていく。個人的にはその矛盾を内包する発展は美しくないとすら思います。
この写真は、そんな僕ですらパソコンのデスクトップに保存している、大事な大事な思い出なのです。
ナカヤマン。
京都とロサンゼルスを拠点とする現代アーティスト。2022年2月にはFrieze Los Angelesの公式プログラムに招致され作品を披露した。そのかたわらでシャネルやルイ・ヴィトンなどのファッションブランドや、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の戦略ディレクターとしても活動する。
Instagram @nkymn
スパ&ホテルの
スーパー旅ブロガー
Ciel
旅ブロガーとしての楽しさと
プレッシャーを思い出させてくれる一枚
ほかはメディア関係者という中、一人だけブロガーとしてモルディブのホテルの視察ツアーに参加していた時のこと。プロのカメラマンに混じり、必死に写真を撮っていました。ちょうどその頃は、自分のブログ本に「写真が残念」と意見をいただいていたのを見つけてしまい、「きれいに撮らなきゃ」と意気込んでいた時期でもありました。
そんなツアーの最終日、「そういえば海を見ていなかった」と半ば放心状態でビーチに座っていたんです。「楽しみで続けてきたブログなのに撮影に追われる意味って?」と思いながら、シャンパンでもなく、洒落たカクテルでもなく、ただの水を飲んでいたら、そのコップ越しの海がとても綺麗だった……。
“とっておきの一枚”は、ブロガーとしての自分を見つめ直していたタイミングと、無意識のうちにやっぱり撮ってしまうんだという可笑しさがないまぜとなって思い出される、そんな一枚です。
Ciel
livedoor 公式ブロガー。「月に一度の世界スパ&ホテル巡り」では、世界のラグジュアリーホテルの滞在記と台湾の日常生活を綴る。Livedoor Blog of the year 2015 グランプリ受賞。KADOKAWAより同名の著書を出版。
Instagram @cieltrip
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