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目利きが選ぶアレやコレ
第19回：大切な人と見た思い出の景色

イラストレーション・naohiga

人生の中に思い出の景色を持つことには格別の意味がある。それが大切な人と共有したものなら、なおさら。3人の目利きたちの忘れがたい景色、大切な人との思い出とは？

01 Yuya HASEGAWA

02 Karen KIRISHIMA

03 Maho TOYOTA

01 Yuya HASEGAWA

足元から世界を変革する
靴磨きの世界チャンピオン
長谷川裕也

リゾートのパーティで受けた社交の洗礼。
若干の悔恨と新鮮な刺激と共に甦る景色

店を始めたばかりの頃、無我夢中の日々がひと段落ついた年末年始。まだ付き合っていた頃の妻と、プーケットのリゾートホテルでパーティに出席した時のことです。海外での初めての年越しということもあり、YOHJI YAMAMOTOの服でお洒落をして臨みました。

途中に音楽が流れ始めると、場慣れした外国人のカップルたちが次々と踊り始めたんです。けれど、僕はジョインしたい気持ちはあっても動けなかった……。それまで仕事ばかりだった僕には、初の大人の社交場の洗礼。その時感じた戸惑いと少しの悔しさと共に、脳裏に焼きつけられたんです。

ノリの良い妻は僕が行けばついてきてくれたことでしょう。次こそは……と思った数年後、リベンジになったのかどうかは疑問ですが、ロシアでの靴磨き大会に特別審査員で参加し、ラストにダンスパーティが催された折。見知らぬマダムに手を取られ、クルクル。と、その時にプーケットでの出来事がふいに脳裏に浮かんだという、なんとも滑稽な思い出の景色になっています。

Yuya HASEGAWA

1984年生まれ。20歳の時に路上から独学で靴磨きをスタート。2008年には世界初のカウンタースタイルの靴磨き店「Brift H」をオープンする。2017年にロンドンで開催された第一回世界靴磨き大会にてみごと優勝。名実ともに世界一の靴磨き職人の称号を手にいれる。著書に『靴磨きの本』など。

Instagram @yuya.hasegawa.brift.h

02 Karen KIRISHIMA

観葉植物と葉山暮らしを堪能する
ライフクリエイター
桐島かれん

汗だくで怒涛の日程をこなす買い付けの道中、
一服の清涼剤だったバリ島のライステラス

暮らしの幸福を提供したくて始めたショップ『HOUSE OF LOTUS』が、雑貨を中心に展開していた頃。アジア各国を飛び回って雑貨を買い付けするのが毎シーズンのルーティーンでした。いい手仕事をする工房は小さな村に点在していることが多く、地べたに座って商談をしていると、ネズミが横切っていったり、ブタが鳴いていたり（笑）。

クーラーがないのは当然という環境の中、汗だくになりながらあちこちを走り回る。そんな工房を回る途中で見つけたのがバリ島はテガラランのライステラス(棚田)でした。稲穂が青々と生い茂り、その中で連綿と受け継がれてきたであろう手作業をこなしている人たちがいる。

大自然の圧倒的な景色も絶景も見てきたけれど、大切な仕事の仲間たちと一緒に見た、つかのまの清涼感を味わわせてくれた田園の風景は一番の忘れがたい思い出になっています。今は世界遺産に登録されて観光地にもなっているけれど、その変遷も、変わらずにある美しさも、また見に行きたい場所です。

Karen KIRISHIMA

1964年生まれ。1986年に大手化粧品会社のイメージキャラクターに起用され、以降モデル、女優、歌手、ラジオパーソナリティと多方面で活躍。1993年に写真家、上田義彦氏と結婚、四児の母。現在は、ファッションブランド「ハウスオブロータス」のクリエイティブディレクターとして世界中を飛び回る日々。

Instagram @houseoflotus_official

03 Maho TOYOTA

絵画、京友禅からDIYまで
創作の舞台を広げるクリエイター
とよた真帆

小笠原の小さな浜辺。
夫と二人きりで空間を共有した小港海岸

ある年のお正月。仕事で小笠原へ行くお話があったんです。渡航する船は週に1便のみ。年明け早々1週間も家を空けるのも気が引けて、夫の分は自費で、26時間の船旅に出掛けることに。

ある時、二人で村営バスの終点まで行ってみたところ、とても眺めの良い小港海岸という小さな浜辺を見つけたんです。気に入ってしまい滞在中に2～3度訪れたのですが、その度に、周りには誰もいない二人だけの空間を満喫することができました。石好きの私は、小笠原の地層を眺めながら“本州と違ってここは枕状溶岩なんだな”などということを考えながら歩き、映画監督である夫は、監督の目線で何かを感じていたと思う。

思考のベクトルが違って沈黙していても二人でいることが自然で、そして時折、他愛もない会話が始まる。小港海岸の景色と時間は、二人のそんな関係性もよく表していて、夫が亡くなった今も思い出される光景です。東京への帰路便が出港する際、島の人たちが船で並走して見送ってくれた景色と共に、小笠原の風景と時間は忘れ難い思い出になっています。