インタビュー
写真・岡村昌宏 文・渋谷ヤスヒト
Photographs by Masahiro OKAMURA
Text by Yasuhito SHIBUYA
音楽を街に“持ち出した”、携帯型・再生専用のカセットプレーヤー、ソニーの初代「ウォークマンTPS-L2」が発売されたのは1979年7月1日。街中でヘッドフォンを着けて歩く姿は当初、賛否両論を巻き起こした。
もはや音楽の“ながら聴き”は当たり前。そしてスマートフォンとサブスクリプション型の音楽配信サービスが普及した今、インナーイヤフォンやヘッドフォンを着けて街を歩く、電車に乗ることは、ごく当たり前の風景になった。
今のインナーイヤー型のイヤフォンやヘッドフォンは、音楽が聴けるだけでなく、電話やSNS経由の通話のヘッドセットとしても機能する。だから、長時間イヤフォンをつけたままの人も珍しくない。
だが、イヤフォン、ヘッドフォンの“つけっぱなし”で、いくつものトラブルが起きている。そのひとつは、「イヤフォン難聴」「ヘッドフォン難聴」と呼ばれる聴覚障害。これは大きな音圧を耳に加え続けることで、鼓膜などの聴覚器官がダメージを受けて起きるもの。一度ダメージを受けてしまうと元に戻ることはほとんどなく、またそのダメージが長年蓄積され、あとで障害が起きてしまうこともあるという。
そしてもうひとつが、耳の中に常にデバイスを入れっぱなしにすることが原因で起こる、耳のかゆみに始まる外耳炎、中耳炎などの耳まわりの感染症。また、イヤフォンやヘッドフォンを装着した結果、周囲の音や人の声が聴こえないために起きる危険や人間関係のトラブルも見逃せない。
8月に発売予定の「earsopen®」シリーズの完全ワイヤレスイヤフォンの最新モデル「PEACE SS-1」。
この状況で注目されているのが、“耳をふさがずに音が聴ける「骨伝導イヤフォン」だ。人は耳の奥にある音を知覚する「蝸牛(かぎゅう)」という感覚器官で、振動として音を認識する。そして、蝸牛の中の有毛細胞がその振動を電気信号に変えて脳に送ることで、私たちは“音を聴いて”いる。
ところで、蝸牛に音の振動が伝わる経路はふたつある。ひとつが「気導音」と呼ばれる、鼓膜が捉えた空気の振動が耳小骨という骨を経由して伝わってくるもの。そしてもうひとつが「骨導音」と呼ばれる、蝸牛の周囲の骨から伝わってくるもの。
骨伝導イヤフォンは鼓膜を経由して音を聴く普通のイヤフォン、ヘッドフォンとは違い、この骨導音で音を聴くことができるツール。耳をふさがないから周囲の音が普通に聴こえるし、イヤフォンの着脱や長時間の使用で耳の中を圧迫したり傷つけたりするリスクもなく、外耳炎や中耳炎になる可能性も低い。また、気導音の経路に問題を抱えて難聴になっている人なら、骨伝導イヤフォンを使うことでその問題を解決、軽減できる可能性がある。
今回ご紹介する骨伝導イヤフォンを開発・製造・販売するのが、BoCo株式会社。その代表取締役を務める謝端明氏は、日本の家電メーカーで製造部門のサプライチェーン・マネジメントを経験した後、経営コンサルタントとして活躍。この骨伝導を使った音響デバイスの大きな価値、可能性に気づいた。そして、この分野で先進的な技術開発を続けてきたゴールデンダンス株式会社に出合い、その技術をさらに発展させた。そして、より良い製品を作るため2015年にBoCoを立ち上げ、2017年からこの分野をリードする製品を続々と世に送り出している。
「この技術を知り、開発者に会って『この技術を使って商品をつくれば、もっと多くの人を幸福にできる』と思いました。また、経営コンサルタントとして仕事をしてきた経験から、『自分でやるならこうする。こうしたい』というビジョンも頭に浮かんだのです。耳をふさがなくても聴こえる骨伝導技術を活かして、人と音の関係をもっと幸福なものにしたい。そして、日本の製造業を立て直したい」と謝氏は語る。
同社が独自に開発した直径1cmの小型振動子を使った、「earsopen®」の商標で展開する骨伝導イヤフォンやスピーカーは、他社の「骨伝導」製品とはまったく違う。多くの骨伝導イヤフォンは、振動子をこめかみに装着して使うタイプがほとんど。だが同社の製品は独自開発・製造の高効率・低消費電力の振動子と音響回路のおかげで、耳の裏や耳たぶ、耳の中心など、さまざまな部位に装着して、しかも音楽をはじめあらゆるソースを、音漏れなく驚くほどクリアな「良い音」で聴くことができる。
残念なことに通販サイトなどでは今、機能的には極めてお粗末な“名ばかりの骨伝導”製品が氾濫している。そのため、骨伝導の技術とその製品に対してネガティブなイメージを抱いている人、その機能を疑っている人も少なくない。だがそれは完全な誤解だ。
BoCoの様々なイヤフォンを気軽に試すことができる銀座ショールーム。
「完全ワイヤレスイヤフォンから有線タイプまで、ぜひ銀座のショールームで当社の製品を実際にご体験ください。そうすれば、耳をふさがずに周囲の音も聴こえる快適さ、着けやすさ、そして音の良さを即座にご理解いただけると思います」
2020年7月に発売された世界初の音楽用、完全ワイヤレス骨伝導イヤフォン「PEACE TW-1」に続く、8月発売予定の第2弾最新モデル「PEACE SS-1」は、一時的に水没させても問題のないIPX7等級の優れた防水性能はそのままに、どんな耳の形にもフィットする「イヤーカフ」構造がさらに進化。着け心地がさらに快適になった。
また、振動子と本体を繋ぐアーチ部分にチタン芯材との一体成形構造を採用し、曲げても壊れにくい優れた耐久性を実現。最新のBluetooth通信規格チップで通話時のノイズキャンセリング機能も進化。そして連続使用時間も最大使用時間も大幅にアップした。さらに充電にかかる時間も短くなっている。
「私たちの骨伝導技術で、人と音の関係を幸福にして、ひとりでも多くの人のクオリティ・オブ・ライフを向上させたい」と語る謝氏。その挑戦は始まったばかりだ。
BoCo株式会社 代表取締役社長
謝 端明
Hataaki SHA
●プロフィール
しゃ はたあき|中国江南大学電気工学部卒。早稲田大学経営システム工学科修了。コニカ株式会社(現コニカミノルタ)の生産技術研究センターで4年弱勤務。その後、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)などの経営コンサルティング会社でSCMや生産改革のプロジェクトマネージャーを歴任。現在は2015年に創業したBoCo株式会社で骨伝導イヤフォンなどの開発、製造、販売を行っている。
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骨伝導イヤフォンの開発・製造・販売を行う、BoCo株式会社。その代表取締役を務める謝端明氏のインタビューをご紹介。