インタビュー
写真・岡村昌宏 文・勅使河原加奈子
Photographs by Masahiro OKAMURA(Crossover) Text by Kanako TESHIGAWARA
日本百名山のひとつ、武尊山の南山麓に広がる群馬県川場村。
かつて過疎化に悩んだこの山間の村は、今では年間約330万人の観光客を迎える。
川場村のユニークな発展の歩みには、30年後の未来を見つめた村づくりがあった。
目に眩しい新緑に囲まれた水源のひとつ、武尊山の雪解け水が流れ込む溝又川。川場村はその名のとおり良質な水場として知られ、かつては沼田城(1532年築城)も川場村から水を引いていた。村には利根川の源流となる一級河川が4つもあるが、溝又川が流れる一帯の山は地元川場村の酒蔵「永井酒造」が所有し、その環境を大切に守っている。
首都圏から北へ車で約100分。山に囲まれた田園風景が広がる群馬県の人口3千人強の小さな村、川場がにわかに熱い。なかでもファーマーズマーケットから地ビールレストラン、子どものためのプレイゾーンやブルーベリー公園まで、20もの施設が集合する道の駅『田園プラザ川場』は、週末ともなれば7つある駐車場は満車となり、買い物や食事だけではない"遊べる道の駅"として、アミューズメントパークのような賑わいだ。1971年はわずかだった観光客が、2015年には年間約200万人を数えるほどに発展したこの村に、一体どんな秘策があったのだろう。
上:鎌倉建長寺を本山とする臨済宗の禅寺「吉祥寺」本堂から裏庭を臨む。境内にある百花園の池には水芭蕉も(4月開花)。下左:川場村のブランド米「雪ほたか」のおにぎりは『田園プラザ川場』で行列ができる人気ぶり。下右:永井酒造の「MIZUBASHOPURE」。川場村の清らかな水を表現する、瓶内二次発酵のスパークリング日本酒だ。
吉祥寺
住所:群馬県利根郡川場村門前860
電話:0278-52-2434
拝観時間:9:00~17:00(最終受付16:00)
拝観料:大人800円
「私の好きな川場の景色をお見せしましょう」と案内してくれたのは、川場村に1886年(明治19年)創業の酒蔵「永井酒造」6代目蔵元、永井則吉さん。蔵から数百メートル下った田んぼ道の真ん中で車を停めた。「かつて川場村では養蚕と稲作が主な産業でした。田んぼと桑畑がミルフィーユ状に重なって見えるような景色でしたが、1967年(昭和42年)、私の父が村長になり、まず稲作に不可欠な水路を整え、畦道から農道までをすべて舗装整備して、現在の圃場を開拓しました。川場村は寒暖差が大きく水も豊かなため、特においしい米がつくれるのです」
永井酒造 6代目蔵元 永井則吉さん。1972年(昭和47年)、川場村生まれ。瓶内二次発酵によるスパークリング日本酒の先駆け「MIZUBASHO PURE」を開発。2016年に「一般社団法人awa酒協会」を設立、初代理事長に就任。2021年に国税庁より「GI利根沼田」の認証を取得。川場村が誇る幻の米「雪ほたか」を使用した酒づくりなど、米文化としての日本酒の可能性を最大限に引き出し、世界に向けて発信する。
則吉さんの父とは、永井酒造の3代目蔵元、永井鶴二氏のこと。当時地方自治体の首長としては最年少の31歳で川場村長となり、その後4期16年にわたって務めた。「今から40年以上前に父はスイス、イタリアの小さな村を視察で訪れています。大都市ではなく、農業と観光を両立しているヨーロッパの村づくりを見たかったのでしょう。美しい農場は生産性が高い。それは父がヨーロッパから学んだことでした」。「農業+観光」で村を活性化する。この時すでに鶴二氏には、30年以上先を見据えた村づくりのヴィジョンがあったのだ。1977年(昭和52年)には、北海道を走っていたD51を旧国鉄から譲り受けて村に運び、『武尊高原駅ホテルSL』をオープンして話題となる。ただSLを展示するのではなく実際に数十メートル走らせて乗車できるアイデアも斬新だった。
D51(デゴイチ)を村に運び入れるため、橋まで掛け替えたという元川場村長、永井鶴二氏は有言実行の人だった。「第二のふるさと」づくりとして健康村構想を提唱した大場啓二元世田谷区長とともに、川場村名誉村民として二人の銅像に会うことができる。鶴二氏の哲学は、現村長にまで脈々と受け継がれている。
そして何よりも村を大きく発展させたのは、1981年(昭和56年)に東京都世田谷区と締結した「区民健康村相互協力協定」(通称「縁組協定」)だ。「都心から150キロ圏内で100箇所以上の自治体が手を挙げた結果、川場村が勝ち取りました。区民送迎のため、村役場の職員がバスの運転免許を取得したほど、父の意気込みは強かったです」。その5年後に設立した『世田谷区民健康村』には、区立の小学5年の児童たちが移動教室に毎年やってくる。それだけで年間約6千人。田植えや稲刈りなど田舎ならではの体験を通じ、川場村は世田谷区民にとって世代を超えた「第二のふるさと」となった。
東京ドーム1.5倍の敷地を誇る全国有数の道の駅『田園プラザ川場』は、一日中いても飽きない。毎朝約200軒の農家から届く野菜やフルーツのほか、チーズやヨーグルトまでがすべてメイド・イン・川場。現在は永井則吉さんの兄、彰一さんが経営。
田園プラザ川場
住所:群馬県利根郡川場村大字萩室385
アクセス:関越自動車道沼田ICから約10分
年中無休
永井家と川場村の歴史は、初代当主、永井庄治が川場の水に惚れ込み、長野県から川場に移住して酒づくりを始めた明治初期に遡る。永井酒造が「川場のきれいな水」の味わいを酒質の軸に据えるのには、そういう理由があった。「初代当主を温かく受け入れてくれた川場村を大切にしたい」。その思いは父・鶴二さんから則吉さんに継がれ、2021年には群馬県産特定酵母のみ使用、「幻の米」とも呼ばれる川場産コシヒカリ「雪ほたか」を100パーセント贅沢に使った「水芭蕉 雪ほたか」シリーズ(GI利根沼田)が誕生した。「日本酒は人と場所と文化をつなぐもの。お客様を村にお迎えするのがとてもうれしい」。則吉さんは、酒蔵ツーリズムに新たなスタイルを導入し、川場の魅力をさらに引き出そうとしている。
水田に映り込む1994年(平成6年)完成の「水芭蕉蔵」。大学で建築を学んだ則吉さんも設計に参加し、蔵の完成とほぼ同時に永井酒造に入社した。旧蔵はショップ『古新館』として活用。地元のブランド米でつくる酒「水芭蕉 雪ほたか」(スパークリング、純米大吟醸、デザート酒)が購入できるのは、ここ川場村の永井酒造『古新館』のみ。
永井酒造 古新館
住所:群馬県利根郡川場村門前713
電話:0278-52-2313
営業時間:9:00~17:00
定休日:火曜
"地域にときめきを"をテーマにもう一つのふるさとを作る「ふるさと ときめき プロジェクト」。
クレジットカードの枠を超えて、人から人へ紡がれてきた想いを共有するこの取り組みから、永井酒造との特別なコラボレーションを行うことが決定しました。
永井酒造の水源と川場村のブランド米・雪ほたかを用いて川場村の里山を表現する商品が誕生します。
永井酒造×ダイナースクラブのオリジナルプレミアムビンテージ酒は10月下旬から先行予約開始予定。
「ふるさと ときめき プロジェクト」のサイトでは、永井酒造とのコラボレーションや商品ができるまでのストーリーなど、随時ご紹介していきます。
https://www.diners-furusato.jp/shop/nagai-sake/
2024/08/16 Interview
2024/07/16 Interview
2024/05/16 Interview
2024/04/30 Interview
2024/03/28 Interview
2024/02/28 Interview
2023/12/18 Interview
2023/11/16 Interview
2023/10/16 Interview
2023/09/19 Interview
2023/07/18 Interview
2023/06/16 Interview
2023/04/03 Interview
2023/03/01 Interview
2023/01/16 Interview
2023/01/16 Interview
2022/12/16 Interview
2022/11/16 Interview
2022/10/17 Interview
2022/09/16 Interview
2022/07/19 Interview
2022/06/16 Interview SDGs
2022/06/16 Interview
2022/06/16 Interview
2022/04/18 Interview SDGs
2022/03/16 Interview
2021/11/16 Interview
「農業+観光」の村づくりを実現した川場村の酒蔵「永井酒造」6代目蔵元、永井則吉さんへのインタビューをご紹介。