インタビュー
写真・永田忠彦 文・渋谷ヤスヒト
Photographs by Tadahiko NAGATA
Text by Yasuhito SHIBUYA
眼科医で、窪田製薬ホールディングスのCEOを務める窪田良先生。
The Impact of Myopia and High Myopia, Report of the Joint World Health Organization-Brien Holden Vision Institute Global Scientific Meeting on Myopia. March 2016.
「ご存じでしょうか?実はいま、世界中で『近視』が爆発的に増えています。2050年には世界全人口の50%の人が近視になると予測されています。でも、ほとんどの人が『近視はたいした病気ではない』と考えています。しかし、これは間違いです」
こう語るのは博士号を持つ眼科医で、窪田製薬ホールディングスの代表取締役会長、社長兼最高経営責任者(CEO)を務める窪田良先生。今回ご紹介する、近視の状態を改善する「Kubota Glass®(クボタグラス)」の開発者だ。窪田先生は眼科医であると同時に、2002年にアメリカで医療ベンチャー企業を設立。以来、世界からひとりでも失明する人を減らすために、さまざまな研究開発を進めている。
「私が最初に取り組んだのは、加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)という病気の治療薬の研究開発です。眼をカメラに例えると、画像を捉えるフィルムの部分に当たるのが網膜。そして黄斑というのは、その中心にある部分です。人はほとんどこの黄斑でモノを見ているので、この部分に問題が起こると視力が低下して、やがて失明してしまいます。まれにですが、子どもでもこの病気に罹って失明してしまうケースがあります。この悲劇をなんとかしたいと思って、起業しました。でも、こうした研究を進めるうちに、眼のさまざまな病気を薬だけでなく物理的なデバイスでも改善することができるのでは?と考えるようになりました」。その結果、誕生したのが「クボタグラス」だ。
この特殊なレンズで近視を改善。
正視と比較した強度近視の二次性眼疾患の合併リスク。
Flitcroft DI. Prog Retin Eye Res. 2012
近視のために、メガネやコンタクトレンズを使用している人は珍しくない。「そのために、近視は『たいしたことはない。メガネやコンタクトで解決できる』と、考えられがちです。でも、実は近視はとても恐ろしい病気で、失明のリスクが劇的に高まるのです。このままだと30年後、40年後に近視が原因で失明する人が激増する可能性があります」と、窪田先生は語る。
そもそも「近視」とはどのような病気なのだろうか……。
近視は、眼のレンズを通った画像を捉える網膜よりも手前でピントが合ってしまう状態だ。子どもから大人に成長する過程で、人の眼のサイズは大きくなる。網膜は、その目の成長を調整する司令塔の役割をしている。「これまでは近視は眼のレンズが原因だと思われてきました。ところが主な原因は、網膜の調整機能にあることがわかってきたのです。しかもこの機能を担っているのが網膜の中心の黄斑部ではなく、網膜の周辺部であることがわかってきました」(窪田先生)。
クボタグラスは、網膜周辺部に光を当てることで後ろに下がっている黄斑部を手前に移動するように促す。
「スマートフォンなど、近くばかり見続けていると網膜の調整機能がおかしくなってしまうのです。網膜より手前にピントが合っている状態なのに、網膜の周辺部からなぜか『もっと網膜の位置を後ろに下げろ』という司令が出て、本来は真球に近い眼球が、網膜の位置を下げるために後ろに伸びて楕円型になってしまいます。眼のレンズから網膜までの位置(眼軸長)が伸びてしまうことで、さらに近視が悪化してしまうこともわかってきました。これを『軸性近視』といいます」
実はほとんどの近視がこの「軸性近視」なのだという。だが、この眼軸長を短くする治療法は見つかっていない。何しろ眼球の形自体が変わってしまうのだから無理もない。ただ、網膜に適切な刺激を与えて、この軸性近視を改善する方法がある。それは「遠くを見る」ことだ。
「昔から『遠くを見ることは眼に良い』と言われてきました。でも明確なエビデンス(科学的な証拠)はありませんでした。ところが最新の医学研究でそれが事実であることがわかってきたのです。そこで弊社がインド系アメリカ人の天才エンジニアと一緒に研究開発したのが、かけることで『遠くを見ている状態』を光学的に再現するこのクボタグラスです」
クボタグラス 770,000円(税込)、専用ケース付き。
クボタグラスをかけた状態(イメージ)。かけ続けることで徐々に目が慣れてくる。
クボタグラスは網膜の周辺部に光を投影し、この調整機能に適切な刺激を与えて網膜をピントが合う手前の位置に誘導する。ずっとかけ続ける必要はなく、一日に数時間で良いという。
「台湾や中国では子どもの近視を減らすために、1日に2時間ほど外遊びをさせる取り組みが行われています。つまりたった2時間でも近視を抑制する効果があることがわかっています。クボタグラスも掛け続ける必要はなく、短時間の使用だけで効果があります」(窪田先生)
現在の課題は価格が高いこと。高価なデバイスを使って、一人ひとりの眼に合わせて手作りしなければならないからだ。窪田先生は現在、このメガネの実証実験と同時に低価格化にも取り組んでいる。
子どもたちの未来のために研究を続ける窪田先生。
「まずはひとりでも多くの方に、近視は将来の失明につながる恐ろしい病気だと認識していただき、遠くを見る習慣を身につけてほしいと思います。ただ現代の生活では、遠くを見ることは難しい環境です。このメガネを普及させることで近視を防ぐことができれば、と願って開発を続けています。このままだと多くの子どもたちが、30年後に失明することになってしまうでしょう」
子どもたちの未来のために、窪田先生の開発と挑戦は続く。
窪田先生プロフィール
窪田 良 MD, PhD
窪田製薬ホールディングス株式会社 代表取締役会長、社長兼最高経営責任者(CEO)
慶應義塾大学医学部卒。眼科医、医学博士。眼科臨床医として緑内障、白内障、網膜疾患などの執刀治療経験を持つ。慶應義塾大学の眼科学研究の過程で緑内障原因遺伝子であるミオシリンを発見、神経変性網膜疾患の分野での功績が認められ「須田賞」を受賞。2000年渡米し、ワシントン大学で研究を続けながら助教授として勤務。2002年に自宅の地下室で起業。
Kubota Glass Store(直営店)
住所:東京都新宿区下宮比町2-16 ブランシエスタ飯田橋1階
電話:03-3268-7375
営業時間:平日13:00~18:00 土曜10:00~18:00
定休日:日・祝・月末金曜
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窪田製薬ホールディングスの代表取締役会長、社長兼最高経営責任者(CEO)を務める窪田良氏へのインタビューをご紹介。