インタビュー
写真・福田喜一 文・渡邊卓郎
Photographs by Kiichi FUKUDA Text by Takuro WATANABE
株式会社千總 代表取締役社長・礒本延さん。
伝統と革新を繰り返して470年もの時を歩んできた
京友禅の老舗・千總が新たに取り組むのは、
顧客との共創体験となるオーダーメイドイベント。
代表取締役社長の礒本さんに聞いた、千總が切り拓く未来について。
一色ずつ手作業で色を染める「色挿し」の工程。作業は一工程一職人の分業体制で行われる。
「創業以来変わらず大切にしていることは、企業理念である『美・ひとすじ』です。“美”には基準がないからこそ、常に探し続けることが大切だと考えています」。
そう語るのは、株式会社千總 代表取締役社長の礒本延さん。
悠久の時が流れる京都の中心地、烏丸三条に470余年の歴史を刻む京友禅の老舗「千總」は、古きを守るだけの存在ではない。時代の流れを敏感に感じ取り、革新を続ける美の探求者である。
時代の潮流が変わろうとも、千總は常に「美」とは何かを問い続け、その答えを示してきた。礒本さんは、歴史の重みを噛みしめるように続ける。
「歴史を振り返ると、美意識がないものづくりは長く続かないと感じます。残っているものは、当時の人々が『きれいだ』『美しい』『捨ててはいけない』と感じたからこそ残ったのではないでしょうか」
ファストファッション化が加速する現代において、この言葉はひときわ重く響く。数百年という時を超えて人々の心を捉え、受け継がれてきた千總のものづくり。その根源には、揺るぎない美意識が存在する。
クリエイティブ部門の責任者などを経て代表に就任した経緯を持つ礒本さん。
歴史ある老舗でありながら、千總のクリエイションは常に未来を見据えている。その姿勢を象徴するのが、話題を呼んだ現代美術家・加藤泉とのコラボレーションだ。
加藤氏の描くプリミティブで力強い生命力に満ちたモチーフが、千總が誇る友禅染の繊細で奥深い技法と融合し、アートピースを纏うかのような新しい視点を着物の世界にもたらした。
一見すると、伝統からかけ離れたように見えるこの試みも、千總の歴史を紐解けば、決して突飛なものではないことがわかる。明治初期、千總は外部から日本画家を招聘し、新しい時代の着物デザインを創造するという実験的な試みを行っていたのだという。伝統の枠に囚われることなく、外部の才能と積極的に交わることで新たな価値を創造する、この革新のDNAは、創業以来、脈々と受け継がれてきたものなのだ。
加藤泉×千總による着物作品。©2024 Izumi Kato ×CHISO
「常に新しいことをしているイメージです 。時代の移り変わりとともに、求められるものの流行も変化してきました。その都度、先人たちはこれまでのやり方を見直し、再構築してきた。だからこそ伝統が続いているのだと思います」
クリエイティブ部門の責任者などを経て代表に就任した礒本さんならではの言葉。それは同時に千總という企業の本質なのだろう。時代の変化の波を乗りこなし、時には自ら波を起こしながら革新を忘れずに千總は歩んできた。
図案をもとにして実際の生地に下絵を描く作業。
伝統と革新を両輪に、京友禅の最高峰として地位を築いてきた千總を支えているのはクラフツマンシップにほかならない。しかし、礒本さんが語るクラフツマンシップは、精巧な技巧や伝統技術だけを指すのではない。
「ものづくりに真摯に向き合う『人』が発信していること、それこそが、当社にとって大きな意味を持っています」
人の手による仕事の価値は、世界的に見直される潮流にある。効率化やデジタル化が極まる一方で、人々は作り手の温もりや物語が感じられるものに、本質的な価値を見出し始めているのだろう。
「今、ヨーロッパの高級メゾンでは手仕事が復活しています。世界的に人がものを生み出す行為が重要視されているのだと思います」
世界のラグジュアリーブランドが原点回帰のように手仕事の価値を再発見する中で、千總には揺るぎないアドバンテージがある。それは、京都という土地そのものだ。
「私たちにとって、京都という土地は非常に重要な意味を持ちます。京都の風土や歴史の中で育まれてきた美意識を、人の手で表現していくことが千總の目指すことなのです」
千年の都が育んだ雅な美意識。その結晶である千總のクリエイションは、世界中の人々を魅了する普遍的な力を持っている。
手描き友禅のスカーフは、職人の手仕事が現代に昇華された逸品。
千總が守り、育み、そして未来へと繋ごうとしている美の本質に、かつてないほど深く触れることができる特別な機会が設けられる。それが、10月24日から始まっている、完全予約制のオーダーメイド体験イベント「CHISO CREATIVE VISIT」だ。
顧客が持っているイメージを千總の職人や図案家が汲み取り、一緒に形にしていくという、世界に一つだけの美を創造する特別な「共創体験」である。
1日1組限定で繰り広げられる特別な体験は、イベント当日よりも前から始まる。参加者のもとへインビテーションとして届けられる箱には、職人の手仕事の気配が感じられる道具が詰め込まれ、箱を開けた瞬間から期待感は高まり、受け取った顧客は物語の主役へと意識を変えていく。
「CHISO CREATIVE VISIT」のインビテーション(イメージ)。
舞台となるのは創業の地にある京都の千總本社。特設された空間で、顧客は職人の精緻な手仕事や素材に直接触れることができる。それらは、訪れた者のインスピレーションを刺激する。
顧客が思い描く夢、大切な思い出、好きな景色や色。それらの断片的な言葉や想いを、専門家たちが丁寧に掬い上げ、自分だけのデザインをつくりあげる。
この共創体験から生まれるのは、着物だけにとどまらない。タペストリーやテキスタイルパネルといった室内装飾品、あるいは日常を豊かにするクッションやスカーフまで。何を作るのも顧客のイメージと対話する。そこには、あらゆる創造の可能性が広がっている。
「CHISO CREATIVE VISIT」は、自身の内なる美意識を発見し、自らの感性が形を成していく奇跡のような瞬間になるだろう。千總が470年の歴史をかけて紡いできた美の世界で、あなただけの物語を始めてみてはいかがだろうか。
※画像は会場イメージ図です。
「CHISO CREATIVE VISIT」
会期:2025年10月24日(金)〜2026年1月31日(土)※毎週水曜日、年末年始休業
会場:千總本社 特設会場(京都)
1日1組様限定(1名〜6名様) ※完全予約制
お申し込みはこちら
Information
株式会社千總
京都府京都市中京区三条通烏丸西入御倉町80
TEL:075-253-1555(千總本店)
https://www.chiso.co.jp
プロフィール
礒本延
En ISOMOTO
新卒での入社後、営業部、企画部などで経験を積んだ後、千總のものづくりを担う製作部の本部長を長年務め、毎年数々発表されるきものの企画から職人体制の構築までを統括。また千總グループのクリエイティブ事業を展開する子会社の代表としても活躍し、京友禅のデザインや技術力を背景にしたファッションテキスタイルのプロデュースや海外ブランドとのコラボレーションなども積極的に展開。2024年より株式会社千總ホールディングス代表取締役専務および株式会社千總代表取締役社長に就任。
2025/12/01 Interview
2025/11/04 Interview
2025/11/04 Interview
2025/11/04 Interview
2025/11/04 Interview
2025/10/01 Interview
2025/10/01 Interview
2025/10/01 Interview
2025/10/01 Interview
2025/10/01 Interview
2025/08/01 Interview
2025/08/01 Interview
2025/08/01 Interview
2025/07/01 Interview
2025/07/01 Interview
2025/06/02 Interview
2025/06/02 Interview
2025/04/01 Interview
2025/03/03 Interview
2025/03/03 Interview
2025/01/06 Interview
2024/12/02 Interview
2024/12/02 Interview
2024/11/01 Interview
2024/08/16 Interview
2024/05/16 Interview
2024/04/30 Interview
2024/03/28 Interview
2024/02/28 Interview
2023/12/18 Interview
2023/11/16 Interview
2023/10/16 Interview
2023/09/19 Interview
2023/07/18 Interview
2023/06/16 Interview
2023/04/03 Interview
2023/03/01 Interview
2023/01/16 Interview
2023/01/16 Interview
2022/12/16 Interview
2022/11/16 Interview
2022/10/17 Interview
2022/09/16 Interview
2022/07/19 Interview
2022/06/16 Interview SDGs
2022/06/16 Interview
2022/06/16 Interview
2022/04/18 Interview SDGs
2022/03/16 Interview
2021/11/16 Interview
京友禅の老舗・千總が新たに取り組む顧客との共創体験について、礒本延氏にお話を伺いました。