インタビュー
写真・池田直俊 文・小沢美樹
Photograph by Naoki IKEDA
Text by Miki OZAWA
株式会社キッチハイク代表取締役、山本雅也さん。
「自然の中で子どもをのびのびと育てたい」。そう願う親は多い。生い茂る緑に囲まれ土の上を駆け回り、虫や鳥を追いかけて遊ぶ。貴重な幼児期にそうした体験をさせてあげたいけれど、都会に住んでいるとなかなか実現できない。
都会の生活は大人にとっては便利な一方で、子どもを育てる環境としてどうなのか……「保育園留学」を推進している「キッチハイク」の代表、山本雅也さんもかつてそんな悩みを抱えた父親のひとりだった。
「我が家は横浜に住んでいました。もちろん便利ですし仕事にも都合がよかったけれど、子どもにとってよい環境とはどうしても思えなかったんです。園庭が狭いとか、外で思い切り遊べないことに、ずっとジレンマを感じていました」
東京生まれ、東京育ち。学生時代から「社会をよくしたい」と思っていたという。大学卒業後、広告代理店に入社。社会へのインパクトを与えるような仕事をしたいと思っていたものの、自身がやりたいこととの違いを感じ、5年で退社し起業した。食と暮らしを起点として地域創生事業を展開する「キッチハイク」だ。
「認定こども園はぜる」の広々とした室内。地元と留学、両方の子どもたちが一緒に遊んでいる。
2021年、2歳の娘さんを通わせたいと保育士や自治体の担当者に相談し、家族で3週間の留学体験を実現させた。娘さんが通ったのは「認定こども園はぜる」。過疎化が進む北海道厚沢部町で、3つの園が統合した形で誕生した保育施設だ。広々とした園庭では子どもたちが好きなように駆け回り、敷地内の菜園では子どもたち自らが野菜や果物を育てる。「のびのび」という言葉がぴったりと当てはまる場所だった。
「厚沢部町の経験は本当に素晴らしいものでした。子どもが活き活きとしていたし、保育士の方々も素晴らしくて。僕たち夫婦はリモートで仕事ができて、仕事と移住生活両方を楽しむことができました。滞在中にSNSで発信していたら、多くの人から『こんなことができるの?』『うちも行ってみたい』という声がたくさん聞こえてきて。僕だけじゃなくて、みんなが同じことを求めていることに気づいたんです」
この隠れたニーズを引き出せたら、過疎に悩む町にとってもいい結果を生むのではないか……。そこから「保育園留学」のアイデアを思いついた。
「厚沢部町は、はぜるの保育士さんたち、そして役場の政策推進課の方など、この場所をよくしたいというすごい熱量の方々の存在があったことが、事業化に向けて大きく背中を押してくれました」と振り返る。
事業化を進める一方で、家族は2回目の保育園留学も体験。
「木に登ったり、思いっきり園庭を駆け回ったりすることで、運動能力が高くなるなどの目に見える成長ももちろんあるのですが、それより遥かに驚いたのが、娘が人間的に成長したことです。新しい友達や先生と出会い、仲良くなって、そしてお別れをする。幼いながらに寂しさや悲しさという感情を経験することで、ぐっと大きくなった気がしました」
この2回の保育園留学を経て、厚沢部町への移住を決めた。と、同時に厚沢部町での保育園留学の事業化も猛スピードで進めていった。
キッチハイクの役割は、「保育園留学」を世の中に知ってもらうことと、実際に参加する家族とのコミュニケーションやカスタマーサポートといった部分。コロナ禍にあって、地方移住への関心の高まりや、子どもの体験不足に対する危惧など、さまざまな要因が合わさり、保育園留学はスタートから大きな関心を集めた。予約もあっという間に埋まり、ウェイティングまで出た。
厚沢部町との取り組みは、1年目から多くのメディアにも取り上げられたことで、他の自治体からも問い合わせが相次ぎ、早くも日本国内に30以上の留学先が揃う(23年9月時)。共通しているのは自然に恵まれた場所であることと、地域に根ざした保育を目指している点。一方で、その地域ならではのイベントや保育内容、園舎などは多彩で、どこにしようか迷ってしまうほどだ。
これまでの参加者は首都圏や大都市に住む家族が9割を占めるという。
「30代から40代の方が多いですね。都会で子どもを育てることに罪悪感のようなものがあるかな、と感じます。海が好きな子なら海が近くの町を、雪で遊ばせたいから雪国を、など、お子さん中心に滞在先を決めるケースが多くみられます」
滞在のスタイルも、仕事をしながらの滞在型や非日常を楽しむリトリート型など、家族によってさまざまだ。
実際にどんな場所があるのか、いくつかご紹介しよう。
「浦河フレンド 森のようちえん」。澄み切った空の下、土や緑に触れて1日を過ごす。
例えば、北海道浦河町「浦河フレンド 森のようちえん」。広大な森を背後に、近くには海もあるロケーション。畑作業は日課として、さらに森の中での生き物探しやキノコ栽培など、自然と共に生きていることを実感しながら過ごすことができる。2頭の馬を飼育しており、森と園舎を行き来している。馬は森の草を食べてくれるため、森の手入れを担っている存在。そんなことも毎日を通して知ることができる場所だ。
馬との触れ合いも子どもの健やかな成長に一役買っている。
「日置保育園」から美しい海へは歩いてすぐの距離。
“海派”ファミリーには、和歌山県白浜町「日置保育園」がある。園から海までは歩いて5分。山も川もあり、日本の原風景の中にあるような保育園だ。園庭の真ん中で存在感を示しているのが大きな木。何十年も生え続けているその木にはツリーハウスが設置され、子どもたちが毎日遊んでいる。地域の人たちとのつながりも強く、親戚の家で過ごすような、温かくリラックスした滞在を楽しむことができそうだ。海辺を散歩したり、近所の川で遊んだり、釣りをしたり、BBQをしたりとたくさんの思い出をつくることができる。
遊びながら英語も学べる「ISNプレスクール上田・上田原キャンパス」。
自然とグローバルな環境、両方体験させたい、という家族に人気なのが長野県上田市にある「ISNプレスクール上田・上田原キャンパス」だ。外国人の先生も多く、英語をはじめ、多言語が行き交う中、国際的なカリキュラムにもとづいた遊びと学びを体験できる。もちろん日本語もOKなので、英語が初めてという子どもでも大丈夫。近所の農園に行って収穫を手伝ったり、ファミリーデイキャンプもあったりと、自然の中で思いっきり楽しむ機会も大いにある。滞在施設がモデルハウスを兼ねており、居住性が高いことも人気の理由の一つだ。
「ISNプレスクール上田・上田原キャンパス」に留学中の滞在先はモデルハウス。親も子も充実の時が過ごせる。
どの留学先にも宿泊施設が用意されている。
「高嶺の森のこども園」。ラブラドールレトリバー2匹と一緒に外遊び。
生き物好きの子どもにおすすめしたいのは、静岡県御殿場市「高嶺の森のこども園」だ。首都圏から近いながらも、御殿場の広大な森の中にたたずむ施設。園の近くにはビオトープがあり、虫や野鳥、水辺の小動物が生息している。季節によってはホタルが飛び交うことも。コテージにはラブラドールレトリバーが2匹いて、散歩の時などに触れ合うこともできる。滞在先となる高嶺の森のコテージは、無印良品の家というのも快適な滞在を求める方には嬉しいポイントだろう。
このようにどの場所も魅力にあふれたところばかり。小さい子どもがいる家庭なら、「連れて行ってあげたい」と思うことだろう。
2021年の事業開始から急速に、保育園、自治体、参加者を増やしているキッチハイクの保育園留学だが、山本さんは「ただ拡大すればいいわけでない」と断言する。
「すべての自治体が保育園留学を実施できるかというと、そうではないんです。地域や保育園の方々の熱量や、地域の未来への具体的なビジョンなどがあるかどうか、そういうところで決まってきますね」と続ける。
そうした確かな思いがある場所だからこそ、子ども、親、そして地域の人々すべてがハッピーになれる。そんなポジティブな連鎖が保育園留学では生まれるのだろう。そして、これからますます、そのハッピーの輪は広がり、深化していきそうだ。
Information 1
ダイナースクラブ会員限定で保育園留学の特別コンシェルジュサービスをご提供します。(2024年3月31日まで)
下記ダイナースクラブ会員専用ページからお問い合わせください。
コラム
全国のニッチな美味しいものをご家庭に。NIPPON LOCAL FOOD GIFT
山本さんがCEOを務める「キッチハイク」が提供している、食のギフトサービス「NIPPON LOCAL FOOD GIFT」。1724の市町村をミクロな単位でフォーカスし、日本各地に息づくユニークな食文化を贈る“えらべるギフト”です。その場所でしか手に入らない野菜や果物から、海産物、乾物、お菓子まで、さまざまなローカルフードが揃う。ほかでは手に入らないものを贈る楽しさと、もらう喜び、そしてそのギフトは地域貢献になるという、こちらもまたハッピーな仕掛けになっている。
Information 2
ダイナースクラブ会員限定で「NIPPON LOCAL FOOD GIFT」の割引コードをご提供。(2023年12月31日まで)詳細は、『シグネチャー』本誌2023年12月号103ページをご覧ください。
山本氏プロフィール
株式会社キッチハイク
代表取締役CEO
山本雅也
Masaya YAMAMOTO
早稲田大学商学部卒業後、博報堂DYメディアパートナーズ入社。独立後、世界中の食卓を巡る旅に出る。食で人と地域とつながる魅力に感動し、キッチハイクを創業。2021年夏冬、北海道檜山郡厚沢部町「認定こども園はぜる」へ、第1号家族として保育園留学。町と園に惚れ込み、2022年春に移住。
お問い合わせ
留学の相談は、保育園留学コンシェルジュがサポート。LINE公式アカウントでチャットからオンライン対話も可能。
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