インタビュー
写真・永田忠彦 文・シグネチャー編集部
Photographs by Tadahiko NAGATA
Text by Signature
ツバメのような流麗な機体が青空に映える。
小さな工場を世界的企業に育てたカリスマ創業者の幼い頃の夢は、飛行機を作ることだった。その夢の実現を彼は見ることはなかったが、
エンジニアたちがその意志を我慢強く引き継ぎ、大空へと羽ばたかせた。
ホンダジェットが日本の空の景色を変える。Go! Fly!
本田宗一郎が抱いた幼い頃の夢を、HONDAのエンジニアたちは約40年という長い年月をかけて結実させた。同カテゴリーで今や世界1位の販売実績を誇るホンダジェットだ。飛行機は機体とエンジンを別々の会社が製作するのが常だが、HONDAは機体もエンジンも自社開発するという険しい道を選んだ。そして、その結果、他社よりも、より速く、高く、遠く飛べるジェット機が出来上がったのだ。
しかし、開発はゴールではなかった。HONDAは今、次のステップ、ホンダジェットのシェアサービスを実現させようとしている。企画から手配、運航までを自ら担い、出発地から目的地までをシームレスに移動できることを目指す。時間はかかるかもしれない、しかしホンダジェットと同様、一歩一歩前に進み“日本の空に近道を作る”……。そのテスト飛行に搭乗すべく、元プロサッカー選手でダイナースクラブ会員の播戸竜二氏が大分空港に向かった。
ホンダジェットに乗り込む播戸氏。
約30分のフライトを楽しんだ後、(写真左から)播戸氏と濱田機長、シェアサービス・プロジェクトを牽引する本田技研工業の井上氏、三井住友トラストクラブ代表取締役社長の五十嵐が、ホンダジェットで移動する未来について語り合った
播戸竜二:あっという間の30分でした。乗っているというよりも操縦している感があって感動しました。
五十嵐幸司:童心にかえると言いますか、ワクワクしましたね。内装ももっとシンプルなのかと思っていましたがラグジュアリー感があり、さらにプライベート感もある。その辺りは開発時に意識されたんですか?
井上大輔:そうですね、壁の質感や座席の素材など、内装は相当こだわっています。我々はずっと乗り物をつくってきたので、ユーザーの様々なお声を蓄積しています。空間づくりという意味では、車も飛行機もそう変わりはありません。
自動車で培った内装技術が活かされたエレガントなシート。
エンジンは自動車同様、ボタン一つでオン。
播戸:濱田機長はボーイング767を操縦されていたそうですが、ホンダジェットを操縦するのとで違いはありますか?
濱田俊郎:もちろんあります。大型バスとスポーツカーみたいですね。
播戸:なるほど、わかりやすい例えですね。ところで今日は虹が出ていましたね。あんなに近くで虹を見たのは初めてです。とてもきれいでした。
濱田:私の長いキャリアの中でもあんなに近くで虹を見たのは数回しかありませんよ。ラッキーでしたね。
五十嵐:実に楽しいフライトでした。あれだけの快適性と楽しさがあったら、ホンダジェットに乗りたい方はどんどん増えてくると思いますね。
井上:つくっただけで終わり、ではなく、ビジネスジェットでの空の移動がいかに快適になるのか、HONDAとしてその仕組みを整えているところです。買うとなると色々な面でハードルは高いですが、シェアできるようになれば利用者は増えてくる。その結果、利用料も下がってくるはずです。
濱田:ホンダジェットの一番の特徴は、エンジンを主翼の上に配置しているところです。一般的なビジネスジェットは胴体後部にエンジンを配置するので、キャビンに近くてエンジン音が大きく聞こえてしまうのですが、ホンダジェットはそれがない。また、胴体後部のエンジンがなくなったことでスペースも広く使えます。このコロンブスの卵的な発想がなかったら、ホンダジェットは生まれませんでした。そのほかにも安全性や快適性を求めて非常に細かい工夫があちこちに施されているのが、この飛行機なんです。我々操縦のプロも唸らされるような……。
五十嵐:とても静かで機内での会話も普通にできましたね。
エンジンが翼上にあるのがホンダジェットの最大の特徴だ。
播戸:革張りの4席シートでゆったりと座れ、会話も弾みました。それから、離陸と着陸も本当にスッと。気がついたら飛んでいたし、あっという間に着陸していました。
濱田:そうですね。大型機と比べて短い滑走で飛べますから、現在ですと全国で70以上の空港で離着陸できます。我々が目指しているシェアサービスが稼働すると地方の空港と空港を結ぶことができ、羽田などの主要空港を経なくても移動ができるので時間もセーブできます。
五十嵐:播戸さんは現役時代、飛行機での移動が多かったのでは?
播戸:はい、そうですね。スタジアムに行って試合をし、数時間後にはまったく違う景色の場所にいる、なんてことはしょっちゅうでした。でも移動は行った先で色々な人に会えたり、新しい発見があったりするので好きなんです。こういうコンパクトなビジネスジェットで気軽に移動できるようになると、人生がもっと豊かになりそうです。
五十嵐:ビジネスジェットをつくるのが目的ではなく、それを多くの人に利用してもらって世の中を便利にしたいという考えに共感します。ビジネスジェットは時間の自由度も高まりそうです
井上:直行便がないところもそうですし、直行便があっても1日に2便などの場合、自分の予定を飛行機の時刻表に合わせる必要があるわけですが、ビジネスジェットならば、自分がやりたいことを先に決めて、それに合うような移動方法を考えればいいわけです。
五十嵐:個人的な旅行などにもぴったりですね。ダイナースクラブでも地域の豊かな食や文化を楽しむプライベートな旅行などを企画したいです。
井上:そこは我々HONDAではできないことなので、ぜひお願いしたいです。
濱田:最近は地方空港からビジネスジェットの利用を増やしたいという要望が多くなってきています。たとえば駐機場までハイヤーを横付けして空港ターミナルを通らなくてもいいように利便性を高めるなど、ビジネスジェットを利用しやすい環境が整いつつあります。
五十嵐:シームレスな移動が可能になるわけですね。
播戸:欧州のサッカーチームだと、試合が終わってからチャーター機で国をまたいでもその日のうちに帰れたりするんです。ホテルに泊まるよりも体力の回復が断然早い。移動時間が少ないというのはいろんな意味でメリットがありますね。
濱田:まだ数は少ないですが、24時間空港が増えるとますます移動時間が短縮されていくでしょうね。
播戸:たとえば、北海道は広いので車で移動すると目的地まで何時間もかかる。でも、ビジネスジェットでサッと移動できたら一度の旅であちこち訪ねることができますね。
濱田:北海道は空港の数も多いですしね。
井上:ホンダジェットで小さな空港間をご利用いただけるよう、今後も様々な課題に取り組んでいきます。飛行機をつくって運航まで挑戦しているのは、今世界でHONDAだけかもしれません。航空会社は運航はできても飛行機はつくれない。ボーイングやエアバスは飛行機はつくっているけど運航はできない。
五十嵐:ワンストップで完結できるのはすごい。HONDAの力を感じます。
濱田:今、現行のホンダジェットよりひと回り大きい新たなモデルを開発中です。そうなると移動距離も延びます。
播戸:ホンダジェットで外国に行けるようになる日も近いですね。
井上:開発当初から、“空飛ぶシビックをつくろう”というコンセプトでした。ホンダジェットでシビックのように気軽に空の旅をしていただけるよう、今後も努力していきたいと考えています
井上大輔
本田技研工業
新事業開発部 MaaS事業ドメイン 主任
2014年本田技研工業入社。二輪部門での商品企画業務等を経て、2019年にMaaSの新事業企画部門に異動。2021年よりHondaJetシェアサービス検討プロジェクトを立上げ推進中。
濱田俊郎
本田航空
飛行機部ビジネスジェット推進グループ
2023年2月、本田航空入社、1980年から2023年1月まで43年間にわたり日本航空でDC10型機(航空機関士、副操縦士)、B767型機(副操縦士、機長)に乗務。総乗務時間は20200時間、乗務した空港は25ヵ国、75空港。
播戸竜二
サッカー解説者/元プロサッカー選手
1998年にガンバ大阪に加入。2006年に日本代表に初選出。セレッソ大阪などのクラブで活躍後、19年ガンバ大阪にて現役引退。日本サッカー協会アスリート委員、SDGs推進チームメンバー、WEリーグ理事を務めるなどサッカーの普及に貢献している。
五十嵐幸司
三井住友トラストクラブ
代表取締役社長
三井住友トラストクラブ株式会社代表取締役社長。1986年、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)に入社。2015年に三井住友トラストクラブ常務取締役。19年より現職。
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