インタビュー

パンフォーユーが手がける
冷凍パンの定期便が、
パン屋さんとの胸躍る出会いを届ける

写真・広瀬美佳 文・渡邊卓郎

Photographs by Mika HIROSE

Text by Takuro WATANABE

冷凍パンの定期便という新しいビジネスを立ち上げたパンフォーユー代表取締役の矢野健太氏。

日本全国にある魅力的なパンを旅するように楽しむこと。冷凍パンの定期便サービス「パンスク」がそれを可能にする。

株式会社パンフォーユーによって、2020年2月末にサービスが始まった「パンスク」。家に届く箱の中に、全国各地のパン屋さんとの出会いが待っている。会員登録者数は4万人以上で提携パン屋も100店舗ほど。地域のパン屋と消費者を繋ぐ「パンスク」は、「第4回日本サービス大賞・農林水産大臣賞」も受賞し、評価されている。

冷凍パンの美味しさに衝撃を受けたことがビジネスのはじまり

全国のさまざまな町のパン屋さんから届く「パンスク」。毎回、どこのパン屋さんのどんなパンが届くのかワクワク。

「広告代理店を退職し、地元・群馬での起業を目指しつつNPOの職員として働いている時に、地元パンメーカーの冷凍パンを食べて、その美味しさに衝撃を受けたんです。美味しいだけではなく、冷凍パンは添加物が少なくて済むという気づきがありました。それがきっかけで冷凍パンそのものに可能性を感じ、パンを扱うビジネスを模索し始めました。当時、東京と群馬を行き来することが多かったのですが、東京と地元のパン屋さんに大きな差を感じていました。価格と来客数の差です。そのギャップをビジネスに繋げようと考えました」

地元パンメーカーと提携する形で2018年にパンフォーユーを立ち上げた矢野健太さん。最初に仕掛けたサービスはパンをカスタマイズできるオーダーメイドパン。自分で具材や生地を選んで注文したパンを冷凍で届けるというものだった。

だが、スタート当初は話題になったものの、リピートには結び付かなかった。次なる仕掛けは、全国各地の名産品を使ったオリジナルのご当地パンを作って、どの県のパンが一番おいしいかを注文数の多さで競う「全国パン甲子園」のサービス。だが、こちらも軌道には乗らず、合弁相手のパンメーカーからもパートナー解消を宣告されてしまったのだ。会社設立からわずか1年後のことだった。

「パートナー解消が決まった時、工場の冷凍庫にはまだパンが残っていて、もったいないので食べてもらおうと思い、知人が働く会社へ送ることにしました。200個ほどの冷凍パンを無断で送ったところ、当然はじめは怒られたのですが、知人の同僚たちから「美味しい!」と、とても反応がよかったんです。そこで、オフィスをターゲットにしようと思いつきました。ヒアリングを進めると、都心のオフィス街にはランチ難民の問題があることを知り、オフィス需要に応える「パンフォーユーオフィス」をスタートさせました。現在では200社ほどに契約いただいています」

「パンフォーユーオフィス」の成功から、
「パンスク」が生まれた

起業してから1年間は苦労続きだったという矢野社長。今の成功があるのは冷凍パンの魅力を信じていたからこそ。

「パンフォーユーオフィス」のサービスを続ける中で、「家でも食べたい」という声を多く聞くようになった。そのニーズに応える形で準備を進め、個人向けのサービス「パンスク」をスタート。コロナ禍の非接触・非対応を求めるニーズ、働き方改革を進める企業が福利厚生の一環で社員にパンを提供するニーズ、添加物が少なくパン本来の美味しさと健康を求めるニーズなどを解決するパンスクは、ローンチ前のテストマーケティングでは100名の募集に対して4,000名も応募があり、それまでのサービスとは手応えが違ったそうだ。こうして好調なスタートを切り、提携店も初めは4店舗だったがその後は順調に増えていった。

「お客様が毎日10名ずつ増えていく感じです。登録者数は2ヵ月で1,000名を超えて提携先の拡大にも力を注ぎました。北海道から沖縄まで日本全国のパン屋さんを巡りましたね。提携先に求めることは純粋に美味しいかどうかはもちろんなのですが、そのお店自体に誰かに話したくなるような素材へのこだわりや職人の想いなど、ストーリーがあるかということがあります。パン屋さんのドアを開けた瞬間に得られるワクワクする気持ちの擬似体験ができるようにしたいのです」

パンフォーユー独自の冷凍技術とシステムが
顧客に特別な体験をもたらす

一般的なパンの包装袋よりもかなり厚手の袋を採用した独自冷凍技術で、美味しさそのままでパンを届けられるように。

「パンスク」がもたらすものは多い。家庭で美味しいパンを味わえる喜びと、知らなかったパン屋との出会い。地域のパン屋にとっては売上の安定化や販路拡大などの問題を解決し、計画製造による廃棄ロスを生まない仕組みも実現する。

「パン屋さんには、出荷日と箱数を事前にお伝えして製造いただいています。お届け先が決まっている状態で生産するため、ロスが生まれないことには感謝の声をいただいています」

各店が自信を持っておすすめする“こだわりパン”が詰められた箱を開けると、個別包装された冷凍パンが入っている。この袋と冷凍のタイミングによる、パンフォーユー独自の冷凍技術が美味しさとワクワクを詰め込むことを可能にしているのだ。

一般的なパンの包装袋よりもかなり厚手の袋は、水分を保ち焼き立ての風味を損なうことなく届けることを可能にする。さらに、独自システムの活用により、会員登録後にはじめて届くパンはなるべく遠方で作られたパンが届くように設定されているのだ。

「お住まいの家から離れた土地のパンが届くように設定しています。パンスクには『おいしいパンを旅しよう』というコンセプトがあり、遠く旅をしてきたパンを楽しんでいただきたいのです。そして、知らなかったパンの世界を提供したいので、パンの種類はパン屋さんとパンスクの専門チームが相談して決めています」

パンと一緒に同封されるパン屋からのメッセージカードは、「パンスク」のスタッフが各店舗でていねいにヒアリングして作られる。各店のこだわりや想いなどが綴られ、地域のパン屋と遠くに住む消費者を繋げてくれるのだ。さらに、パンが届くと顧客から作り手に向けて感謝やお礼のメッセージを送れる機能も導入。矢野さんはこのメッセージがとても重要なものとして捉えている。

パンと一緒に届けられる各店からのメッセージカード。

「パン屋さんとお客様を繋げ、パンだけでなくお店の雰囲気や空気感、パン職人のお人柄など、すべてを伝えたいのです。その原点にあるのは、パンのオーダーメイドサービスをやっていた頃、毎日パンの香りに包まれてものすごく楽しかったんです。その事業は成功しませんでしたが、あの頃の経験は大きいですね。僕がこんなに楽しいんだから、お客さんも絶対に楽しいはずだと思っていました」

矢野さんが抱いた、パンを前にした喜びと楽しむ心。それは色褪せることなくパンと一緒に詰め込まれ、届いた家を明るく楽しく彩ってくれる。


矢野氏プロフィール

矢野健太
Kenta Yano

株式会社パンフォーユー代表取締役。1989年生まれ、群馬県太田市出身。京都大学経済学部卒業後、広告代理店、NPO法人の事務局長職を経て、2017年1月にパンフォーユーを設立。パン屋さんと消費者をつなぐプラットフォームサービスを提供しながら、「新しいパン経済圏を作り、地域経済に貢献すること」を目指している。


「パンスク」とは?

全国どこかのパン屋さんから、冷凍パンが定期的に8個前後届く、パンの定期便。
お届け間隔は選べ、変更やスキップも可能。

3,990円(税込)/1回

Information

ダイナースクラブ会員優待として「パンスク」のお得なクーポンコードをご提供。(2024年3月31日まで)
3回目のお届けまで各回500円割引、合計1,500円割引に。
詳細は、『シグネチャー』本誌2024年1・2月合併号104ページをご覧ください。

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株式会社パンフォーユー代表取締役の矢野健太さんへのインタビューをご紹介。