インタビュー

モノづくりの精神と技術の結晶。
デサント水沢工場が生み出す「水沢ダウン」

写真・船橋陽馬 文・渡邊卓郎

Photographs by Yoma FUNABASHI Text by Takuro WATANABE

従来の約3倍となる280もの工程を積み重ねて完成する水沢ダウン

岩手県奥州市。奥羽山脈の裾野に広がるこの地に、新たな姿を得た「デサント水沢工場」が立ち上がった。操業開始から55年にわたり、受け継がれてきたモノづくりの精神と技術。その結晶としての「水沢ダウン」を生む水沢工場を訪ねた。

デサント水沢工場

エントランスルームには、「水沢ダウン」の設計図ともいえるパターンボードが描かれている。

2008年の誕生以来、世界を驚かせ続けている「水沢ダウン」。
浸水を許さぬ防水性能、動きやすさを追求した精緻なパターン設計、そして最高級羽毛と熱を逃さない独自構造による卓越した保温性。日本が誇るダウンウェアの逸品は、世界に誇る技術の結晶として生まれる。

そのクラフツマンシップの象徴こそが「水沢工場」である。新工場は広大なワンフロアとして設計され、天井の高さと自然光の柔らかな広がりが印象的だ。木の質感を活かし、白とグレーで統一された空間は、遮るもののない視界とともに開放感と静謐さを併せ持ち、職人がモノづくりに没頭できる場となっている。

作業スタッフの動線もまた、緻密に設計されている。素材の搬入から縫製、仕上げ、検品に至るまで、人もモノも滞りなく流れる。生産課課長の齊藤慎樹さんは語る。

「一人ひとりが滑らかに動けること、リーダーが全体を一目で把握できること。それは効率性だけでなく、職人が安心して仕事に没頭できるためでもあります」

現場の多くを担う女性スタッフに配慮した設計も随所に施されている。重い荷を持ち上げる必要をなくす棚、軽い力で静かに動く台車、そして休憩時に心を整えられるリカバリールーム。効率性と快適性を兼ね備えた環境が、最高の製品を生み出す基盤となっている。

スタッフが好きな場所で寛ぐことができる休憩スペース。

空調には輻射冷暖房を採用。風が生まれないため、糸が揺れることも、人の体に風が当たることもない。

280の工程を積み重ねて完成する水沢ダウン

「水沢ダウン」が唯一無二と称される理由のひとつに、その膨大な工程がある。
一着が完成するまでに、実に280もの工程を経る。その一つひとつを支えるのは、職人の技と経験である。

パタンナーは縫製者の特性を理解し、縫いやすさを追求したパターンを設計する。縫製職人は、機械では再現できない繊細な感覚を駆使し、一針ごとに確かさを積み重ねる。羽毛を封入する作業もまた熟練の技を要する。羽毛が空気を含んだ際のふくらみ方を見極めるのは、経験を積んだ目にしかできない。

最終段階では徹底した品質検査が行われ、縫製のわずかな乱れすら見逃さない。
「品質チェックで『合格』となっても、自分が納得しなければ直す。その誠実さは東北の人々の気質とも重なります」と工場長の杉浦剛さんは語る。

高い技術を必要とする圧着工程。

「羽毛検査室」も完備。納品される羽毛までも徹底した品質管理が行われる。

現在、約120人のスタッフがそれぞれの工程を担い、積み重ねた技が一着の「水沢ダウン」へと結実する。
「一人ひとりは280工程のうちの一部を担当しているにすぎません。しかし、それが最終的に世界に届けられる製品となる。その誇りを皆が胸に抱いています」と齊藤さんは語る。

杉浦さんは続ける。
「この工場にはデザイナー以外のすべての人材が揃っています」
水沢工場は、ダウンウェアにおけるデザイン以外の全工程を内製化できる稀有な拠点だ。パターン設計からサンプルの縫製や修正、さらにはリペアまでを一貫して担い、製品を最後まで見届けている。そこにあるのは、モノづくりへの揺るぎない責任感である。

キャリア40年のベテランから20代の若手まで、幅広い年齢の職人がともに作業する。

地域とともに歩む水沢工場

水沢工場の強みは、地域との深い結びつきにある。スタッフの多くは工場から車で20分圏内に暮らし、二世代、三世代にわたり勤務している家庭も少なくない。

ある女性社員は、母も祖母も水沢工場で働いていた。幼いころから二人の背中を見て育ち、自然と同じ道を選んだという。地域に根ざしたこの工場は、土地そのものが技術を育んできた場所であることを物語っている。

水沢工場 工場長の杉浦剛さん。

生産課課長の齊藤慎樹さん。

「単に雇用を生むだけではなく、地域の文化として技術を継承していくことが使命だと思っています」。杉浦さんはそう語る。

退職した元スタッフが新工場を訪れ、働く人々の姿を見て「やはりこの工場は良い工場だった」と涙ながらに語ったこともあるという。水沢工場は、地域の人々に誇りを与える存在となっているのだ。

近隣には散居村集落の風景が広がる。

挑戦の歴史、未来への継承

水沢工場の歴史は、挑戦の連続である。操業当初は野球のユニフォームやスキーウェアの生産から始まり、2008年には「水沢ダウン」が誕生した。

当時はデフレ下でコスト削減が当然とされたが、あえて高品質を追求する道を選んだ。その姿勢は「時代に逆行している」と揶揄されたが、信念を貫いた結果、いまや世界に求められるブランドへと成長したのだ。

新工場は、その歴史を未来へとつなぐ象徴である。美しく効率的で、人に寄り添う空間。そこから生まれる製品は、デサントのクラフツマンシップ、東北の人々の気質、地域の誇り、そして未来への挑戦。そのすべてを宿している。

特徴的な屋根のデザインは散居村のある平野の景観に合わせている。


Information

株式会社デサント

東京都豊島区目白1-4-8
TEL:03-5979-6006
https://www.descente.co.jp

デサント公式通販
「DESCENTE STORE オンライン」

https://store.descente.co.jp/brand/DESCENTE+ALLTERRAIN

2025年8月よりDESCENTEブランド専用アプリが誕生。
商品のメンテナンス方法からスタイリング提案、
限定商品の購入や限定イベントの情報など、長く楽しめる情報をお届けします。

https://store.descente.co.jp/descente/news/appdes


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世界を席巻し品質にこだわり抜く「水沢ダウン」を生み出す水沢工場についてお話を伺いました。