インタビュー
写真・岡村昌宏 ⽂・⼟⽥貴宏
Photographs by Masahiro OKAMURA(Crossover)
Text by Takahiro TSUCHIDA
独特の造形が⽬を引く⼆重螺旋階段。グレーの階段の下に、最上階の館⻑の邸宅へと通じるもう⼀つの階段がある。
寄付者のプレートはこの壁⾯に設置される。
1930年代、パリで巨匠ル・コルビュジエに師事した建築家の坂倉準三。
彼の代表作『アンスティチュ・フランセ東京』の改修が始まり、隣接する新館も完成した。
ダイナースクラブ会員はそのための寄付をする優先権をもつ。
旧館の外側に⽴つ塔のような⼆重螺旋階段は、その内部に美しい造形を隠している。中庭からも⾒える、この建物のシンボルだ。
⻑年にわたり『東京⽇仏学院』として親しまれ、2012年に『アンスティチュ・フランセ東京』へと名称を変えた建物に、憧れを抱く⼈は少なくない。その旧館部分を設計したのは、20世紀建築の巨匠であるル・コルビュジエに師事した伝説的な⽇本⼈建築家、坂倉準三。1931年から36年までパリのル・コルビュジエの事務所に在籍した坂倉は、⽇本に帰国して第⼆次世界⼤戦を乗り越え、50年代に⼊って建築家のキャリアを本格的に歩み始める。アンスティチュ・フランセ東京は、この時代における彼の傑作として位置づけられている。その⽂化的価値の⾼さを、『アンスティチュ・フランセ⽇本』代表で、在⽇フランス⼤使館⽂化参事官を務めるステファンヌ・マルタン⽒はこう語る。
「⽇本の⻄洋建築は、明治時代からドイツやイギリスの影響を受けてきたようです。しかし1930年代以降、フランスで近代建築の新しいムーブメントが勃興し、その中⼼にいたのがル・コルビュジエでした。当時から坂倉をはじめ、多くの建築家がフランスの建築家と交流しています。さらに現在は、⽇本の建築家がフランスで建物を設計することも増えました。つまり⽇本とフランスの建築の“恋愛関係”は、30年代からずっと続いてきた。アンスティチュ・フランセ東京の旧館は、そんな⻑い歴史の証⾔者です」
坂倉準三はパリでル・コルビュジエに師事し、帰国後の1940年に⾃⾝の設計事務所を設⽴。近代建築の担い⼿として⼤きな⾜跡を残す。
© Institut français du Japon
この旧館は1951年に完成し、約10年後にやはり坂倉の⼿によって増築されている。⽔平のラインを強調するかのような低層の建物で、ル・コルビュジエの代名詞でもある⽩で統⼀された外壁がまぶしい。規則的に並んだ窓や幾何学的なディテールにも、師の影響が窺える。同時に、⽇本的な感性も発揮されたに違いないと、マルタン⽒は説明する。
「簡潔な建築でありながら、独特の繊細さがあるのです。その象徴といえるのが、中庭に⾯した⼆重螺旋階段。外観はシンプルですが、内部は独特の造形を取り⼊れていて、技術的にもきわめて⾼度なものです。外から⾒えないところに美しさが隠れているのは、⽇本の美学に違いありません。坂倉が⽇本の近代建築の担い⼿だったことを考えると、いっそう興味深く思えます」
フランス中部、パリの南⻄に位置するシャンボールには、フレンチ・ルネサンス様式で建てられたシャンボール城がある。この城にも⼆重螺旋階段があり、⼀説にはレオナルド・ダ・ヴィンチが設計したという。マルタン⽒は、坂倉がその発想を引⽤したのではないかと話す。
「シャンボール城はバロック的な美学を基調とするので、様式は近代建築とはまったく違うのですが、それを超えて引⽤したところがおもしろい。坂倉の建築家としての知性を⽰していると思います」
⼆重螺旋階段は、機能としても理に適ったものだった。天窓からの光が差す階段は、この施設の学⽣たちが通るためのもので、1階の出⼊り⼝から教室が並ぶ3階の廊下までを結ぶ。⼀⽅、その下を通路とする階段は、竣⼯当時に館⻑の住居があった上層階に通じていた。つまり1つの階段塔の中で、2つの動線が交わらないようにするための構造なのだ。この構造を、丸みを帯びた優美な三⾓形としたところに、坂倉の美的感性がさりげなく表現されている。
初期のドローイングでは円形の講堂が計画されていたが、この形状は実現しなかった。⼀⽅、⼆重螺旋階段の塔は当初から構想されていた。⼆重螺旋階段の設計図⾯。丸い三⾓形が⽴体的に造形され、その内部に上下⼆重の階段が設えてある。所蔵:国(⽂化庁国⽴近現代建築資料館)
「昨年から開始されたアンスティチュ・フランセ東京の改修⼯事により、⼆重螺旋階段の天窓を補修して、⾃然の光が降り注ぐようになりました。また竣⼯当初のとおりに塗装をし直しています。坂倉のアーカイブから、この建物の当初のカラーリングを再現し、彼の意図に基づいて素材などを決めていったのです」
旧館の改修に先駆けて、昨年6⽉には建築家の藤本壮介が設計した新館もできあがっている。彼はモンペリエで2019年に完成した集合住宅『ラルブル・ブラン』により、フランスでも広く知られる存在である。
「新館の建築には、旧館を真似することなく、2つの建物が会話するような関係性が求められました。藤本さんは、南仏の⼩さい村をイメージして、そんな⾵景をつくる建築を提⽰してくれたのです。周囲にさまざまなビルが⽴ち並ぶような環境であっても、新館が中央の庭を囲み、旧館を守るように、とてもいい雰囲気をつくり出しています」
新館の2階以上には教室が並ぶとともに、テラス状の通路を多⽬的スペースとして活⽤することもできる。また1階には講堂があり、いずれはレストランがオープンする計画もある。歴史を感じさせる旧館、藤本によるコンテンポラリーな新館、そしてのどかな中庭を眺めながらの⾷事は格別だろう。
⼆重螺旋階段を1階から⾒上げる。昨年までの改修により天窓が補修され、採光が向上した。旧称の『東京⽇仏学院』の⽂字がファサードを飾る。上部が広がったキノコ型の列柱は、改修時にグレーに塗装された。
「アンスティチュ・フランセのような⽂化センターは楽器に似ています。決まった演奏法を超えて、即興的に使うことができるからです。フランス語学校としての役割はもちろんですが、映画、⾷、アート、パフォーマンスなど、多様な⽂化イベントに対して、これから積極的に取り組んでいきます」
スクラップ&ビルドの弊害が叫ばれてきた⽇本だが、歴史的意義のある建物であっても、経済的合理性の前に消え去るケースは今なお後を絶たない。その点で、新旧2つの建物が時代を超えて調和したアンスティチュ・フランセ東京のあり⽅は、建築が本来もつ豊かさを実感させてくれる。さらに、すでにある価値を将来の世代へ受け継ぐことは、サステナブルでもあるだろう。余計なエネルギーやマテリアルを使わずに、創造性と美意識によって施設がアップデートを重ねていくからだ。こうした歴史と未来を⾒通す姿勢は、フランスの悠久の⽂化史によって裏づけられている。
今回、ダイナースクラブ会員は、アンスティチュ・フランセ東京の改修のために寄付ができる特別な優先権をもつ。寄付者の名前はプレートに刻まれ、建物内に設置されることが決まっている。
「寄付いただく⽅に深い敬意を表すため、プレートは⼆重螺旋階段の壁⾯に設置します」とマルタン⽒。この貴重な役割に与することは、⼀つの偉⼤な⽂化を担うことを意味する。
藤本壮介が⼿がけた新館には、いずれレストランも開業する予定。広いデッキは多様なイベントに対応する。
在⽇フランス⼤使館⽂化参事官のステファンヌ・マルタン⽒。
Information
プロジェクト名 |
「アンスティチュ・フランセ東京/坂倉準三棟改修プロジェクト」 現在、アンスティチュ・フランセ⽇本では、⽇仏両国の絆を象徴するアンスティチュ・フランセ東京・旧館改修のための寄付を募っています。2022年10⽉31⽇(⽉)までは、ダイナースクラブ会員様のみの募集となります。 |
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寄付内容 |
「アンスティチュ・フランセ東京/坂倉準三棟改修プロジェクト」への⽀援 |
募集数 |
8,000,000円/1⼝を4⼝募集 |
寄付先 |
アンスティチュ・フランセ⽇本 |
応募締切 |
2022年10⽉31⽇(⽉)まで |
ご⽀援の |
❶坂倉準三築 螺旋階段にお名前が刻まれたプレートを10年間掲出 ❷上記と同様のプレートをご⾃宅⽤にプレゼント ❸後⽇、フランス⼤使館関係者等との特別な昼⾷会へのご招待
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お問い合 |
詳細はアンスティチュ・フランセ⽇本へメールでご連絡ください。 dinersclub@institutfrancais.jp |
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建築家 坂倉準三の代表作『アンスティチュ・フランセ東京』の改修は、ダイナースクラブ会員に託されたサステナブルなプロジェクトです。