インタビュー
写真・斉藤有美 文・渡邊卓郎
Photographs by Yumi SAITO Text by Takuro WATANABE
日本のキャビア作りの先駆者、ジャパンキャビアの坂元基雄社長。
「黒い宝石」と称され、世界中のグルメから愛されるキャビア。「日本が世界に誇れるようなキャビアを作りたい」という想いでスタートした、日本的感性が溢れるジャパンキャビアのクラフトキャビアが世界に広がりを見せている。
日本で開催されたG7サミットの夕食会で、各国首脳に提供されたジャパンキャビアのクラフトキャビア。
ジャパンキャビアのキャビア作りは、2013年に宮崎県の豊かな自然の中で始まった。同年には国産初の本格熟成キャビア「宮崎キャビア1983」を発売。「宮崎キャビア1983」は2016年の「G7伊勢志摩サミット」、そして2023年の「G7広島サミット」でも夕食会のメニューに採用された。また、国内外の有名シェフからも支持を集め、ANA国際線ファーストクラスやJAL国際線ファーストクラスの機内食に選ばれるなど、今、まさに日本を代表するキャビアとなっている。
「1983年に旧ソ連から友好の証しとして200匹のチョウザメが日本政府に寄贈され、宮崎県水産試験場で研究をスタートしたことがすべての始まりでした。チョウザメ養殖の取り組みが進み、繁殖に成功した後の2010年頃のこと、成長したチョウザメからキャビアが取れる見込みがたったタイミングで、宮崎県内の12の養殖業者が組合を作り、私が事務局長を務めることになりました」
そう語るのはジャパンキャビアの坂元基雄社長。2013年当時、日本においてキャビアの生産業者はなく、ジャパンキャビアの前身である宮崎キャビア事業共同組合はキャビア製造を主とする製造メーカーでは日本唯一になった。チョウザメが日本に寄贈された1983年を日本のキャビア元年ととらえ、「1983」をブランド名に付けた初の商品「宮崎キャビア1983」を2013年にリリース。国内向けに「宮崎キャビア1983」、国外向けに「1983 J.CAVIAR」としてブランド展開している。
途方もない時間をかけてキャビアの小さな一粒一粒から不純物を取り除いていく。それはすべて手作業だ。
「宮崎キャビア1983」の開発は、初めからうまくいったわけではなかった。その大きなポイントは熟成。生産体制が整い、作ったキャビアをフランス人シェフに食べてもらうと、「これはキャビアとは言えない。このキャビアは熟成させているのか?」と酷評されたそうだ。その時日本ではまだ「熟成キャビア」の概念がなかったという。
「ワインやチーズを寝かせると旨みが増すように、キャビアも熟成することで味が豊かになっていくんです。でも、海外のどのメーカーも熟成方法はトップシークレットなので、熟成させるための最適な温度や湿度などの環境、塩加減、熟成期間などのデータを取って、数えきれないほどの失敗をしながらテストを繰り返しました」
光が見えたのは新工場が建設されてからだという。徹底した衛生管理を可能にするクリーンルームを作ることで、外部からの菌を遮断できるようになったのだ。そこからさらなるトライアンドエラーを続けた末に、独自の熟成方法を見出すことに成功した。ジャパンキャビア独自の「熟成キャビア」の誕生だった。
ジャパンキャビアには、キャビアに付着している不純物を完全に取り除くこと、そして、見た目の美しさへの徹底的なこだわりがある。
「海外では不純物をそのままの状態にしておくことが多いんです。それが複雑な味を生むといいます。でも、私たち日本人の感覚からいくと、それはキャビアの本来の味ではない。だから、時間がかかっても不純物は完全に取り除くようにしています。海外のキャビア工場も見たという外国人シェフがうちの工場にもやって来るんですけど、ピンセットを使って細かい作業をしているのを見て『クレイジー!』と言われます。瓶を開けた時に粒がそろっているように、一粒ずつ向きをそろえたりもしていますからね。これも『宮崎キャビア1983』ブランドのクオリティ維持には欠かせません」
日本のもの作りの美学がジャパンキャビアの製品に現れている。キャビアの世界では日本は後進国ではあるが、新しいキャビアの姿を世界に発信しているともいえる。
「最後の最後まで、ていねいに手を抜くことなくやろうと決めたんです。味はもちろん重要ですが、見た目の美しさについてもさまざまな方面から評価をいただいています。私たちは日本で初めて『クラフトキャビア』という言葉を使っていますが、『クラフトキャビア』とはキャビアマイスターが手間を惜しまずこだわりを持って作った純国産熟成フレッシュキャビアのことだと定義しました」
「宮崎キャビア1983」と「宮崎キャビア1983 バエリ」のセット(キャビア専用シェルスプーン付き)12,960円(税込)と、「J.CAVIARウォッカ」(100ml)1,210円(税込)。キャビアマイスターによるていねいな作業で作られたキャビアの味はもちろん、その美しさも堪能したい。
キャビアというと、一般的にはシャンパンや白ワインを合わせるだろう。だが、あらゆる酒との組み合わせを試した坂元さんは、日本酒とのペアリングこそが最高だと語る。
「シャンパンと日本酒でしたら、断然日本酒の方が相性がいいです。もうシャンパンには戻れなくなってしまうほどです」
ジャパンキャビアがアルコール業界と最初にコラボしたのは日本酒だった。2014年には世界的な人気を集める日本酒「獺祭」とのイベントを開催し、注目を集めた。そして、もう一つ、坂元さんがキャビアとの相性のよさを伝えたいのがウォッカだ。
「キャビアの本場ロシアではウォッカを合わせます。ウォッカもまたキャビアとの相性は素晴らしいものがあります。そこでキャビアに合うウォッカ『J.CAVIARウォッカ』を造りました」
坂元さん自身がブレンドし、味の方向性を決めていったという「J.CAVIARウォッカ」には宮崎らしさが詰まっている。宮崎特産の麦焼酎をベースにして、日向夏、平兵衛酢をブレンドし、アクセントを加えるために山椒の風味を取り入れた。
「ウォッカとキャビアを合わせることで口の中に広がるハーモニーは最高です。キャビアの旨みの余韻が口の中に残る。でも、すっとなくなっていく。この、すっとなくなる感覚が大事なんです。もう1回食べたくなり、永遠に楽しんでいただけます。キャビアとウォッカといえば『007』のジェームズ・ボンド。ウォッカ・マティーニとキャビアを愛したボンドのように楽しんでいただきたいですね」
自身が作る最高のキャビアを最大限に味わうため、ウォッカ造りにまで向き合う坂元さん。日本のキャビア産業のトップランナーであり続ける坂元さんのチャレンジは、終わることを知らない。
「キャビア作りにおいて、日本が技術的にトップを走り始めたという自負はあります。世界のキャビアの生産量は中国が1位ではありますが、品質では日本のキャビアの方が上だと思います。今は日本産のウイスキーが世界で揺るぎない評価を受けていますが、その昔は日本人がウイスキーを美味しく造れるなんて誰も思わなかった。同じように、日本のキャビア業界を底上げしていくことで、10年後には日本産のキャビアもウイスキーのように世界的な評価を得られると信じています」
トップランナーとして日本産キャビアの価値を確実に上げ続けている坂元さんの夢は、大きなものだった。きっと近い将来、世界で最高評価を受ける日本産キャビアが生まれるに違いない。
坂元氏プロフィール
坂元基雄
Motoo SAKAMOTO
ジャパンキャビア株式会社代表取締役。宮崎県日南市出身。チョウザメの養殖やキャビアの製造に尽力し、2013年設立の宮崎キャビア事業協同組合では事務局長を務める。同年、「宮崎キャビア1983」のブランドを設立。そして2016年には同組合を法人化し、社名をジャパンキャビア株式会社に変更するとともに、同社の代表取締役に就任。
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