インタビュー

ダイメックスが紡ぐジュエリーの物語

写真・福田喜一　文・渡邊卓郎

Photographs by Kiichi FUKUDA　Text by Takuro WATANABE

有限会社ダイメックス代表取締役ディラジ・シンギ氏

インドと日本をジュエリーで繋ぐダイメックス

（左）エレガントウェーブピアス／328,000円、（右）エレガントウェーブネックレス／330,000円

「インドは昔からダイヤモンドの中心地でした」と語るのはジュエリーブランド『Deliciae（デリシェ）』を展開する有限会社ダイメックス代表、ディラジ・シンギ氏だ。

ダイメックスが本社を構える山梨県甲府市は、古くより水晶の産地として栄え、江戸時代には水晶の研磨技術が確立。やがて宝飾加工へと発展し、日本のジュエリー産業を牽引する存在となった土地である。その歴史と職人技が息づく街で、インドのダイヤモンド文化と日本の精緻なものづくりを結ぶシンギ氏の原点は、ジュエリー業界に携わる両親の教えとインドで育まれたダイヤモンド文化にある。「今でもゴルコンダ産のダイヤモンドはクリスティーズやサザビーズなどのオークションで、非常に高値で取引されています。昔採れたものが50億円、100億円といった価格になることもあります」とシンギ氏。インドの歴史と技術を幼少の頃から肌で感じてきたシンギ氏だからこそ、ダイヤモンドへの深い造詣と情熱を抱くに至ったのだろう。

19歳で来日したシンギ氏は、ジュエリー会社に8年間勤務した後、25歳で独立。甲府でダイメックスを創業した。背景には、家業を継ぐ目的と甲府という土地の可能性があった。

ダイヤモンド輸入卸業者がジュエリー製作まで手がけることで、ダイヤの品質や特性を熟知したプロの視点が、デザインや仕上がりに直接反映される。

世界へ伝えたい日本のものづくり

「甲府には、世界に誇れる素晴らしい職人たちがいます。私たちはインドからダイヤモンドを輸入しますが、それらを加工するのは日本の職人さんです。彼らの技術は、世界トップレベルなのです。インドの高度な研磨技術と日本の精緻なものづくりをつなぐ架け橋になれたらという想いがあります」シンギ氏のその言葉に、ダイメックスが担う使命が込められている。

ダイメックスのジュエリーは、インドで研磨された高品質なダイヤモンドと、甲府の職人が持つ卓越した加工技術が融合することで生まれる。ダイヤモンド輸入卸業者としての経験が、ジュエリー製作において大きな強みとなっているのだ。「また、エンドユーザーと直接つながることで、ユーザーの想いやコンセプトを的確かつスピーディに取り入れたオリジナリティー溢れるジュエリーの開発が可能になり、長年にわたる経験と技術力で、信頼の品質をお届けできるのです」と語るシンギ氏。その言葉には顧客の声に耳を傾け、形にするダイメックスのものづくりへの姿勢が示されている。

「甲府に暮らし、もはやインドよりも甲府が故郷のようになっています。日本でジャパニーズドリームを成功させることができたので、何か恩返しをしたいという気持ちが強いのです。そして、その中で一番悔しかったのは、これほど素晴らしい職人がいるのに、その技術が世界に知られていないことでした。だからこそ、メイド・イン・甲府のジュエリーを世界に発信したいのです。日本の職人の心意気は守り、繋いでいくべき意味のあるものです。日本の職人が誇りを持って作ったジュエリーは、海外のブランドに引けを取らない素晴らしいものであり、大きな財産なのです」

代々受け継ぐべき文化と財産としてのジュエリーの価値を強調するシンギ氏。ダイメックスのジュエリーを通してジュエリーの本来の文化と価値が伝わることを願っている。

ネックレス10ct／1,780,000円

『Deliciae』ブランドが放つ輝き

「『Deliciae』のジュエリーには、1点ごとに物語があります。それは採掘現場から発掘された1粒のダイヤモンドが宝石商の手へと渡り、いくつかの工房で伝統的なカットや研磨の装丁が施され、厳選された天然のダイヤモンドのみを熟練のジュエリー職人がていねいに加工して、お客様のもとへと届けるのです」とシンギ氏は語ってくれた。

ダイメックスから生まれたブランド『Deliciae』のジュエリーはインターネット販売のほか、ふるさと納税の返礼品としても高い評価を得ている。特に人気を集めているのが、贅沢なダイヤモンドの輝きを放つテニスネックレスや、14cm〜22cmまで選べるテニスブレスレット、大粒1ctのダイヤモンドを使用した特別感あるアイテムである。

「ふるさと納税を通じて、甲府の技術と私たちのジュエリーを全国の皆様に届けられることを誇りに思います。消耗品ではない一生残る宝物として、多くの方に選ばれているのだと実感しています」とシンギ氏は語る。

ふるさと納税を通じて提供される『Deliciae』のジュエリーは、楽天市場・ふるさとチョイス・さとふる・ふるなび・マイナビ・JREモール・JALといった主要プラットフォームで展開されており、甲府市の地場産業を支える『かいてらす』との連携により、実店舗での展示・販売も行っている。一般販売価格50万円（税込）以上のハイエンドな商品も多く、返礼品としての品格と特別感を兼ね備えている点が、多くの支持を集める理由である。

ディラジ・シンギさん（左）とディパリさん（右）。『Deliciae』のデザインはディパリさんが担当する。

ジュエリーは伝え、受け継ぐもの

現代の日本では、ジュエリーは流行に左右されるアクセサリーとして捉えられがちだが、シンギ氏は「流行を追いかけること自体は悪いことではありませんが、それだけではジュエリーが持つ本来の価値を見失ってしまいます。ジュエリーは、もっと深い意味を持つものです」と、その想いを語る。

日本では身に着けているジュエリーを数年後に手放してしまうケースが多いというが、ヨーロッパやインドでは昔から持っている古いジュエリーでも、デザインを少し変えるだけで、新しいものとして生まれ変わらせるためのリメイクやリフォームの文化が根付いているという。「ジュエリーは思い出を形にするものです。例えば、お子さんが生まれた時に贈る誕生石のネックレスは、お子さんの成長とともに、その時の思い出を呼び起こしてくれるでしょう。結婚指輪も、夫婦の誓いを形にするものです」と、ジュエリーが持つ記憶や想いを象徴する役割について語る。シンギ氏がこだわる、ジュエリー文化の本質がここにあるのだろう。