インタビュー

高級日本酒マーケットを拓く、ゼロからの挑戦

写真・栗林成城 文・中村千晶

撮影協力:ホテル&レジデンス六本木

Photographs by Shigeki KURIBAYASHI

Text by Chiaki NAKAMURA

高級日本酒ブランド「MINAKI」を運営する株式会社REBORN代表 皆木研二氏。

ラグジュアリーな日本酒とは――?たまらなく興味をかき立てるその一口が、日本酒の新たな扉を開くかもしれない。

2022年2月に誕生したラグジュアリー日本酒ブランド「MINAKI」。その代表作「極幻 GOKUGEN」は、生産本数わずか1,000本。販売から1年で、すでに6つの国際的コンペティションでゴールドなどを受賞し、有名グルメガイド掲載店や5つ星ホテルなど100店舗以上で提供されている。また、店頭販売は一切行わず、オンライン販売では完売続きの入手困難な状況だ。この“究極”のラグジュアリー日本酒を生み出したのは、まったくの異業種からこの世界に飛び込んだ皆木研二氏。そのあくなき挑戦とは――。

日本酒が苦手だった起業家の横顔

皆木氏の経歴はなかなかドラマチックだ。大学在学中から人材系のベンチャー企業で創業メンバーとして携わり、2015年にまだ目新しかった動画広告会社『プルークス』を立ち上げ、業界の先陣を切った。3年後に会社を売却し、JCOM株式会社の子会社に。退任後はプロ・バスケットボールBリーグの共同クラブオーナー兼社外取締役を務め、その後、スタートアップ企業への投資事業を手がけたことから飲食業界に参入。こうして日本酒の世界に飛び込んだ。しかし、そんな皆木氏の第一声は意外なものだった。

「実は日本酒をずっと敬遠していました。僕はそんなにお酒に強くないので、“アルコール度数の強いお酒”というイメージがあったからです」
印象が変わったのは2020年。仕事一筋だった人生に区切りをつけ、全国を旅して回ったときのことだ。地方の日本料理店や旅館の料理長にすすめられ、その土地ならではの日本酒を飲んだ。そこにあったのは美味しい料理とお酒、その背景にあるストーリーや空間、それを愛する人々。それらすべてを味わうことで、日本酒の新たな可能性に気づかされたという。

「これこそがラグジュアリーな体験なのだと感じました。同時に高級旅館やホテルに高級なワインやシャンパンはあるけれど、それに匹敵する日本酒がないことにも気がついた。日本酒は、造り方はシンプルでも、味わいはすごく複雑で深い。その美味しさを特別な場所や人と一緒に味わうような、土地への愛情や背景、ストーリーなどすべてを含んだ『ラグジュアリーな日本酒』として提供したいと思ったんです。国内での日本酒の消費量は低迷しているものの、海外での人気と需要は高まっており、とりわけ高級酒マーケットは最近注目され伸びている。本当に美味しく、かつ付加価値のある商品を生み出せば、そこを入り口に国内外に日本酒の愛好家を増やし、業界全体のボトムアップも図れるのではないかと考えました」

準備期間の間に、年間1,000銘柄以上の日本酒を飲み、本や記事を読み込んで知識を集め、飲食店関係者に徹底的にヒアリングを繰り返した。ただ「知りすぎない」ことも重要だったという。
「日本酒は創業数百年の老舗が普通にあるような世界です。そこに新規参入するには、僕らにしかできないことをしないといけない。ゼロからやるならば、外の世界から来たメリットを生かさなければ意味がない」

しかしこの無謀とも思える挑戦が、そう順調に運ぶわけはない。「なぜ2,000円で買える日本酒が10倍以上もするのか?安くてうまい酒はたくさんあるのに、そんな高い酒は誰も頼まない」といったお叱りの声も数多く受け、何度も心が折れそうになったという。
その状況を少しずつ変えていったのは、あくなき情熱と、一軒一軒ていねいに会話を繰り返すことだった。やがてその姿勢に共感し、応援してくれる人たちが、一人また一人と現れる。光が射した瞬間だった。
「本当に救われました。生産者の方々をはじめ、お客様に提供いただいている飲食店様、お酒造りに関わってくれる多くの人に助けられ、今では、自分たちだけでやっているという気持ちは一切なくなりました。関わる方々から感謝や喜びの声をいただくことも増え、高級日本酒という新たなマーケットをつくっているという実感があります」と皆木氏は述懐する。

山田錦100%で醸した「MINAKI」のフラッグシップ日本酒「極幻|GOKUGEN」。ブランド創設半年で、IWC(インターナショナル ワイン チャレンジ)2022 金賞をはじめ、6つの世界的な品評会で受賞。(写真提供・REBORN)

異業種での経験が培った人とのつながり

「異業種で培った協働するチームづくりというノウハウは、日本酒造りでも活かされていると思います。僕には最初から『目指す味わい』が明確にありました。華やかさがあり、しかし甘さと酸のバランスがよく、単体でも食中酒としても美味しく楽しめる、エレガントな味わいというイメージです。実際に味わったなかから、僕の思いと似た方向性の日本酒の造り手を探しました。なかでもオーク樽を使ったり、スパークリング日本酒など新しい挑戦をしている若い世代の杜氏にシンパシーを感じました。そうやって全国から探し出した一人ひとりに『一緒にやっていただけませんか』という思いを伝えました。結果、僕らの趣旨に賛同してくださったのが、山形と青森の杜氏と酒蔵でした」

2021年に株式会社REBORNを創業。翌年にリリースした「極幻|GOKUGEN」は、果実さながらのふくよかな香りと洗練された甘み、ほのかな酸味を実現した逸品だ。兵庫県産山田錦を精米歩合17%まで磨き、口当たりは穏やかでやわらかい。販売3ヵ月で『コンラッド東京』をはじめ、有名グルメガイド2つ星の『銀座 小十』など名店に導入された。

こうして、卸を通さず、ホテルや飲食店と直接取引をするMINAKI独自のビジネスモデルができ上がっていった。店頭販売は一切行わず、オンライン販売のみ。その理由は、自分たちの価値観や思いを直接伝え、その世界観を共有できる空間で、お酒と料理を味わってもらいたいという純粋な思いからだ。

「動画広告会社でも代理店を通さず、広告主を自社で開拓し、直接ヒアリングをして制作していました。同じように飲食店にも直接、アタックしたんです。これはと思う店を一軒一軒回り、コンセプトを説明して試飲してもらいました。結果『美味しい!』という反応をいただき、卸を通さず直接発注していただいた。『酒屋ならともかく、お酒を造っている人から飛び込み営業をされるなんて、生まれて初めてだ』とよく言われましたが(笑)、そこからまず興味を持たれて、話を聞いてくださる方も多かったんです」

味覚の記憶と直感が育む日本酒の輪郭

発端は自らの「好き」と興味。が、その分野をあえて勉強しすぎず、型にはまらないことが“皆木流”。人と人とのつながりを開拓し、新たなチャンスを生み出してきた。現在は、酒米・水・酵母をすべて地元産にして、自然、気候風土、人と技術が渾然と溶け合う「テロワール」を感じてもらえるような新たな味わいに挑戦している。

「山形県オリジナル酒米『雪女神』で醸した『極幻|FORMULA.2』は、華やかさと甘みを持ちながら優雅な酸と、キレのある後味が特徴です。『珀彗|HAKUSUI』は青森県産の酒米『吟烏帽子』を用い、シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵で造るスパークリング日本酒。スパークリング日本酒というと甘いイメージがありますが、そのイメージを払拭するシャンパーニュのようなドライな仕上がりを目指しました。青りんごや洋梨を思わせるさわやかな香りと味わいで、乾杯の一杯にも最適だと評価をいただいています」

MINAKIのラインアップ左から:

MINAKI|極幻 FORMULA.2
優雅な酸とキレのある後味。食中酒として最適な「極幻」の新商品
山形県産雪女神100% 精米歩合29% アルコール分15度
720ml 1000本限定 21,780円(税込)

MINAKI|極幻 GOKUGEN
ふくよかな香りと複雑な旨み。MINAKI初リリースの究極の一本
兵庫県産山田錦100% 精米歩合17% アルコール分15度
720ml 1000本限定 32,780円(税込)

MINAKI|珀彗 HAKUSUI
瓶内二次発酵、ノンドサージュのドライスパークリング日本酒
青森県産吟烏帽子100% 精米歩合非公開 アルコール分11度
750ml 500本限定 27,280円(税込)

ラグジュアリー日本酒「MINAKI」世界へ

各酒蔵に委託醸造というかたちをとっているが、いわゆる「プロデュース」をしているだけではない。味へのこだわりはもちろん、日本酒のマーケットの成長のために、常にアクションを起こしている。今年は台湾とアメリカのシリコンバレー、シンガポールでの海外進出が決まった。いずれも人とのつながりが生んだ縁だという。

「人が欲しがるもの、応援したくなるものをつくっていけば、必ず協力してくれる方、応援してくれる方が、人の巡り合わせで自然と現れる。さまざまな職種を経て、いま心の底からそう思うようになりました。そのためにも本当に“いいもの”を作っていきたい。サステナブルの観点も重要です。磨いた酒米の残りを米油に再利用しているほか、酒粕を導入店に無料で提供し、料理やデザートに活用していただいています。そのレシピを日本酒を購入して下さった方にシェアする試みも行っています。今後も多くの酒蔵や飲食店とつながり、取り組みやイベントを通じて人とつながっていきたい。そのことが僕らとMINAKIというブランドを成長させてくれると信じています」


皆木氏プロフィール

皆木 研二
Kenji Minaki

経営コンサルティング、動画広告、Bリーグのクラブ運営、投資事業などを経て飲食業界へ転身。2021年に株式会社REBORNを創業し、高級日本酒ブランド事業「MINAKI」を運営。2022年2月「MINAKI 極幻 GOKUGEN」をリリース。ブランド創設半年で、6つの世界的な品評会で受賞し、1年で100店舗のファインダイニングや有名グルメガイド掲載店に導入。


お問い合わせ

高級日本酒ブランド「MINAKI」

Information

ダイナースクラブ会員対象の特別優待情報(2023年7月16日まで)があります。詳細は、『シグネチャー』本誌2023年7月号96ページをご覧ください。

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