インタビュー
写真・永田忠彦 文・渋谷ヤスヒト
Photographs by Tadahiko NAGATA
Text by Yasuhito SHIBUYA
「水沢工場」の匠たちが丹精を込めて作る国産ダウンジャケット「水沢ダウン」。
画像提供:デサントジャパン(株)
冬にはたくさんの雪も降る、岩手県奥州市にある「水沢工場」。
画像提供:デサントジャパン(株)
あなたは、通称「水沢ダウン」という国産の高機能ダウンジャケットをご存じだろうか?
「水沢ダウン」とは、日本のスポーツウェアブランドのデサントが「オルテライン」から発売しているもので、正式名称は「水沢ダウンジャケット」。2008年に発売されてから今年で14年目を迎えるダウンジャケットの定番で、毎年売り切れてしまうほどの人気を誇る存在だ。
「水沢ダウン」の「水沢」とは、デサントが国内に持つ4つの工場の1つ、岩手県奥州市にある水沢工場のこと。多くのアパレル製品と同様に、同社の製品のほとんどは海外の工場で生産されている。だがこのダウンジャケットはスキーウェアなどの重衣料の生産を担っていた水沢工場の優れた縫製技術を持つ“匠たち”の手で製造される国産の特別な一着なのだ。
デサントジャパン(株) クリエイティブ・ディレクター兼デザイナーの山田満氏
水沢ダウンはドイツ・ミュンヘンで開催される世界最大級のスポーツ用品見本市ISPOにおいて、2013年から8年連続でISPO AWARDを受賞。また、2014年にはJAPAN GOOD DESIGN AWARD「ベスト100」および「未来づくりデザイン賞」、2017年には第39回繊研賞受賞など多くの受賞歴を持つ。この「水沢ダウン」を企画したのが、大阪にあるデサントの研究開発拠点DISC(DESCENTE INNOVATION STUDIO COMPLEX)でクリエイティブ・ディレクター兼デザイナーを務める山田満氏だ。
「もともとは2010年のバンクーバーオリンピックの日本選手団のために企画・開発したものです。2006年頃、岩手県奥州市にある水沢工場を訪れたとき、ダウンジャケットを作る設備を工場内で見つけたことがきっかけでした」
デサント独自の加工技術「熱接着ノンキルト加工」の仕組み。
画像提供:デサントジャパン(株)
「これまでさまざまなハイテク保温素材が開発されてきましたが、保温性能という点では今も天然のダウン(水鳥の羽毛)を超えるものはありません。だから保温素材にはダウンを使いたい。ただ、ダウンには弱点があります。濡れてしまうと保温性能が大きく低下してしまうのです。雨の多いバンクーバーのオリンピック会場で使うには、この防水性の問題を解決しなければなりませんでした。でも従来の作り方だと、縫い目からジャケットの内部に水が入ってしまうんです」
従来のダウンジャケットは、表地と裏地の間に羽毛を詰める際、羽毛の偏りを防ぐ目的でキルティングと呼ばれる刺し縫いが施される。これはダウンジャケット最大の特徴の一つである一方、キルティングをする際にミシンの針を通すことで生地に微細な穴を開けなければならず、この穴から雨などの水がウェア内部に侵入してしまうことが問題点として存在していた。
「水沢工場にはスキーウェアの開発で長年培った接着などのさまざまな技術やノウハウがありました。そして今もその技を受け継ぎ、発展させているウェア作りの匠たちがいます」
現在、水沢工場でパタンナーを務める製品開発課主任の及川主計氏は語る。
「水が内部に浸入しないようにするためには、縫い目をなくすしかない。縫うのではなく特殊な熱接着という方法で、しかも丈夫でコールドスポットができないようにしたい。そのためにさまざまな接着の方法を検討し、『熱接着ノンキルト加工』という独自の加工法を開発しました。また、袖などの縫製が必要な箇所には、裏面にシームテープ加工を施すことで防水性、耐水性を確保。詰めるダウンの量も、部位ごとにコンマ1グラム単位で細かく調整することにしました」(及川氏)
こうして2008年、まるで羽根布団に包まれているような暖かさと、圧倒的な防水性、耐水性を備えたダウンジャケット「水沢ダウン」が誕生、製品化された。
「水沢という名称を使ったのは、水沢工場の匠の人たちの技術や努力に報いたいと思ったからです。幾度となく工場へ出向き、試作やテストを繰り返してきた製品が、日本選手団の方々と一緒にオリンピックという最高の舞台に立てたことは今でも忘れられません」と、山田氏は感慨深げに当時を振り返る。
水沢工場でパタンナーを務める製品開発課主任の及川主計氏。
独自の充実した基本機能も、「水沢ダウン」の魅力をさらに高めている。そのひとつが「デュアルジップベンチレーション」で、保温性が高いだけに「寒くない場所では暑過ぎる」というダウンジャケットの課題を解決するために考案されたもので二重にしたフロントジッパーのメッシュ部分からジャケット内の不快な熱や湿気を逃がすことができる。さらに左右の脇下にピッドベンチレーションを配置しており換気機能を高めている。そのほかにも、光を熱に変える同社独自の保温素材「HEAT NAVI(ヒートナビ)」、パラシュートのように一気にフードが出てくる「パラフード」システムなど、防寒ウェアとしての機能性が徹底的に追求されている。
ジッパーを引くとパラシュートのように一気にフード出てくる「パラフード」システム。普段はフード部分を完全に収納しておくことで、水や雪溜まりを防ぐ効果がある。
このようなハイテクジャケットにもかかわらず、実は裁断、ダウンパックの形成、熱圧着加工、ダウン詰めまで、すべての工程が経験豊富な職人の手作業で行われているという。
「ほぼ手作りだと考えていただいて間違いないですね。大量生産はできませんから、長く愛用していただきたいと思っています」と、両氏は語る。
水沢ダウンを購入時に付属される品質保証書。
そのために2年間の品質保証や修理サービスの体制を整え、クリーニングの大手「白洋舍」と提携して専用のクリーニングプログラムも用意したほどだ。
「付属の品質保証カードを提示していただければ2年間は無償で、保証期間が過ぎた後も修理を受け付けます。これは水沢工場に匠たちがいるからできることなんです」(及川氏)
水沢工場の匠たちの技術と誇りから生まれたこのダウンジャケット。そのクオリティに袖を通したら、あなたもきっとその虜になるに違いない。まさに、こだわりの逸品だ。
お問い合わせ
社名:デサントジャパン(株)
電話:お客様相談室 フリーダイヤル0120-46-0310
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“匠たち”の手で製造される国産の特別な一着、「水沢ダウン」。デサントジャパンの山田氏と及川氏へのインタビューをご紹介。