インタビュー

オリーブ農園から始まる、
地域コミュニティと食の未来

写真・栗林成城 文・中村千晶

Photographs by Shigeki KURIBAYASHI

Text by Chiaki NAKAMURA

CREA FARM代表の西村やす子さん。直営の日本平オリーブ農園にて。

「静岡にオリーブ畑があるんですか?どんな味なんですか?」――周囲の誰もが驚き、興味津々の顔つきになる。

かつてイタリアで出合った搾りたての高品質なオリーブオイルに魅せられ、静岡県でオリーブ栽培とオリーブオイルの生産をゼロからスタートさせたCREA FARM(クレアファーム)の西村やす子さん。2014年に構想し、9年間で栽培から搾油、販売まですべて自社で行う6次産業モデルを構築した。

主力商品の「crea farm 静岡産 エキストラバージンオリーブオイル」は数々の国際コンクールで入賞、今年は世界最大かつ最も権威あるオリーブオイルコンペティションのひとつ「2023 ニューヨーク インターナショナル オリーブオイルコンペティション(NYIOOC)」で金賞を受賞した。その貴重な一滴は、果実のようなフレッシュさと深みを併せ持っていた。

富士山を望む駿河湾沿岸の丘陵地に広がる日本平オリーブ農園。

オリーブオイルにもテロワールがある

黄みがかったグリーンのオイルをひとさじ口に含むと、フレッシュな青い香りが鼻に抜けた。ハーブのようなほのかな辛みと苦み。その奥にバナナに似た風味もある。

「オリーブの品種って5000くらいあるんです。青リンゴやバナナ、トマトやハーブ、ナッツや緑茶のような風味を感じる品種もある。その中から日本人が好むフルーティーでスパイシーな味を目指して、富士山の裾野で海が近いこの土地の土壌と気候に合った品種を選び、一番よい状態のものを生産できていると自負しています」

オリーブオイルソムリエの資格を持つCREA FARM代表取締役の西村やす子さんはそう話す。オイルとして知名度も高く、観葉植物としても人気のオリーブだが、その生態は意外と知られていない。

「日本で高品質のオリーブオイルを作るのはすごく難しいんです。国産ワインと違って栽培・搾油技術の知見が圧倒的に少ない。そのため国産オリーブオイルの生産量は日本での流通量の1%しかありません」

もともと司法書士だった西村さんは2014年、イタリアで搾りたての高品質オリーブオイルの美味しさに目覚めた。搾った瞬間から酸化してしまうオイルは、輸入の過程でどうしても風味がおちてしまう。それならばこの日本で、自分たちで作るしかない。さらに司法書士として土地の相続相談を受けるなかで、後継者のいない農家の悩みにも直面していた。

「もっと農業って面白くなるはずなのに、という思いと、世界で通用する高品質なオリーブオイルを作りたい!という思いがつながったんです」

地域コミュニティとの共創

だが静岡では誰も「オリーブ」を栽培したことがなく、真のオリーブオイルの味を知る人もほとんどいなかった。「世界で通用する高品質オリーブオイルを作る」という熱意と思いつきで突っ走ったものの「最初は誰からも『ヤバい人?』という感じで、まったく相手にされませんでした」と西村さんは笑う。そこでまず、自分が本当に美味しいと思うオリーブオイルを輸入し販売する専門店「crea table(クレアテーブル)」を立ち上げ、トマトや練り製品、豆腐など身近な食材にかけて試食を提供し、美味しさを広めることから始めた。

「みなさん『オリーブオイルってこんなに美味しいんだ!』と驚いてくれた。そこで『何年か後に国産のすごくいいのができますから!』と。畑も決まっていなかったんですけどね(笑)」

その心意気に、まず富士山を見晴らす景勝地・日本平の農家が賛同してくれた。さらに世界トップレベルの指導者にして元オーストラリア・オリーブ協会会長のポール・ミラー氏を招致し、栽培や搾油の指導を受けることができた。次いで高い技術と科学的アプローチを持つ地元の農家たちも巻き込み、栽培に成功する。

世界が認めた高品質オリーブオイル

現在、CREA FARMは、日本平オリーブ農園約3ヘクタール、カフェを併設した藤枝オリーブ農園(育成・整備中)約4.2ヘクタールを有し、2022年に12トンのオリーブ果実を生産。一粒のオリーブの実から採れるオイルは10%ほどで、年間約1トンのオリーブオイルを搾油している。

主な品種はピクアル種、コロネイキ種、アルべキーナ種、コラティーナ種の4種。アルベキーナ種はマイルドで、コロネイキ種は青いバナナや緑茶の風味を感じさせ、ピクアル種は青いトマトやミントの香りがある。

「品種の違いに加え、青い実か完熟した黒い実を搾るのかによっても味が変わります。青い実はスパイシーで、ちょっとパンチのあるオイルが搾れます。完熟した実はマイルドでとても柔らかい味になる。たとえば赤身肉にはスパイシーなオイルが、淡白な魚にはフルーティーなオイルが合う。パンにつけるのか、チーズにかけるのか、お刺身にかけるのかなど、食材とのペアリングを楽しめます」

CREA FARMのオリーブの収穫時期は10月から11月半ばまで。すべて手摘みで丁寧に選果し、24時間以内に搾油される。フレッシュなオイルは、ヘルシー志向からの需要も高まっている。

「工業的に作られるサラダ油などに比べ、オリーブオイルは実をそのまま搾る果汁、いわば生ジュースです。フレッシュなものほど自然の持っている風味が生きているのはもちろん、健康面からも注目されています」

静岡産 エキストラバージンオリーブオイル
NYIOOC(世界最大規模のオリーブオイル品評会)金賞受賞!
一つひとつ手摘みで収穫した、搾りたて
国産エキストラバージンオリーブオイル
50ml 1,944円(税込)/100ml 3,456円(税込)

オリーブを核としたアソートメント

オリーブオイルはさまざまな食材をまとめ、つなげる魔法の調味料、と西村さんは話す。

「最後にサラダにかけると味わいがひとつにまとまるように、オリーブオイルは人と人をつなぐこともできる。たとえば地元のトマト生産者さんと一緒にドレッシングを作ったり、漁師さんたちと一緒に缶詰を作ったり、いろんなことができると当初から思っていました」

実際「なんか面白いよね」という人たちが集まり協力し、事業が拡大していった。オリーブを核に地域のブランド化、観光資源としての農園づくり、地元食材とコラボしたクラフト商品の開発、体験型のファームパークやレストラン施設へと広がるモデルを生んだのだ。

「オリーブオイルを使った県産品の開発も増えてきました。なかでもわさびの茎漬けやしらすなど静岡ならではの食材をオイルに漬け込んだ『食べるオリーブオイル』は、ご飯や冷や奴、パスタとも相性抜群の人気商品です」

柚子胡椒の食べるオリーブオイル UMAMI OIL
スパイシーで爽やかな食べるオリーブオイル。食感、爽やかさ、後を引く辛さが癖になる万能調味料 120g 1,231円(税込)

静岡産わさびとしらすの 食べるオリーブオイル UMAMI OIL
静岡産EXVオリーブオイルに、新鮮なわさびの茎と用宗湾で水揚げされたしらすを合わせた食べるオリーブオイル 120g 1,231円(税込)

焼津かつおの和風ペースト UMAMI PATE
「UMAMI OIL」に続き、焼津港で水揚げされた一本釣りカツオを使用したUMAMIシリーズ第2弾! 120g 1,026円(税込)

静岡産しらすのアヒージョ
豪州産と自社農園のEXVオリーブオイルに釜揚げしらすを合わせたオリジナルのアヒージョ 110g 1,458円(税込)

  • オリジナル食品は、直営店舗クレアテーブルで各種ラインナップを取り揃えています。

メンバーシップで体験する「食と農」

CREA FARMのファンクラブともいえる「crea ship(クレアシップ)」も新たな試みだ。メンバーになると四季折々のクラフトフードが入った詰め合わせが年に4回届くほか、オリーブの収穫体験やイベントなどの優待体験ができる。また市場にほとんど出回らない希少な「搾りたて」「無濾過」のオリーブオイル「ノヴェッロ」が入手できるのもメンバーならではの特典だ。

「生搾りで日持ちがしないので、搾油後2ヵ月ほどが美味しく食べられる目安です。お茶でいうと新茶を味わうような感覚で人気があります」

最近はメンバーからのアイデアで、コスメやサプリの開発もしている。

「これからはオリーブを核に、ライフスタイルを含めた新しい地域活性のかたちを発信していきたいんです。オリーブオイルと相性のよい『麹づくり』を体験するワークショップや『朝活体験』なども始めています。東京から車で約2時間というアクセスのよさを生かし、今後は宿泊施設やグランピング施設を併設し、泊まって、食べて、遊べて、疲れた心を癒やせる場所にしようと構想中です。ちょうど日本の真ん中にあたるこの土地をハブに“自然と共生する食と癒しの場所”をつくっていきたいですね」

CREA FARMが取り組む「食と農のこれから」の未来は明るい。

【crea ship 2023 秋 メンバー募集中】

実りある暮らしをともにつくる「crea farm」メンバーシッププログラム
年会費 33,000円(税込)
年4回ギフトBoxほかメンバーシップ特典付き


【CREA FARM×ダイナースクラブ特別優待のご案内】

特典内容:5,000円(税込)以上のお買い上げで500円OFF

  • 利用方法:以下専用ページでのご購入時、決済情報入力画面にクーポンコード「dc23aw」を入力してください。会計額から500円割引となります。
  • 優待期限:2023年12月31日(日)
  • クーポンコードの入力がない場合は特典が適用されませんのでご注意ください。
  • 詳細は『シグネチャー』2023年11月号をご覧ください。

西村氏プロフィール

西村やす子
Yasuko Nishimura

CREA FARM代表取締役。1997年、司法書士事務所開業。2015年、オリーブ生産事業を核として「日本の食と農の新しい未来を創造する」ことをミッションとするCREA FARM(クレアファーム)を設立。2017年、地域商社「ふじのくに物産」設立。オリーブオイル専門店「crea table」(静岡市)、オリーブパーク「crea village」(藤枝市)を運営。オリーブオイルソムリエ。


お問い合わせ

crea table
*ソムリエのいるオリーブオイル専門店

静岡県静岡市葵区紺屋町11-1 ガーデンスクエア静岡1階
Tel:054-251-2277
営業時間:ショップ 11:00〜19:00
定休日:水曜


crea cafe & restaurant
*オリーブパークのカフェ&レストラン

静岡県藤枝市仮宿745-1
Tel:054-641-6650

営業時間:[平日]ショップ11:00〜16:00
レストラン11:00〜14:00(L.O.13:30)
[土・日・祝]ショップ8:30〜16:00
レストラン8:30〜15:00(L.O.14:30)

定休日:火曜・第1月曜

Information

CREA FARM(クレアファーム)

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CREA FARM代表の西村やす子さんへのインタビューをご紹介。