京都肉三昧

花街の秘かな愉しみ
熟成牛の「塩ハンバーグ」

写真・伊藤 信 文・澤井祐輝(アリカ)

軒先に下がる提灯が風情漂わせる、京都五花街で最古という上七軒。北野天満宮へと向かう上七軒通に面した町家の2階に、ステーキハウス『上七軒 ゆう』がある。ホテルやフレンチレストランなどで経験を積んだシェフが開いた店は、オープン以来、お茶屋の女将をはじめ、地元・上七軒の人から愛されてきた。
細い階段を上り、扉を開くとまず目に入るのが、芸舞妓の名が入る団扇だ。上七軒はもちろん、京都最大の花街・祇園からも多くの芸舞妓がこの店の味を求めて訪れるという。

以前はステーキをメインにしたボリュームたっぷりのコースのみ提供していたが、お茶屋遊びの前後に訪れる旦那衆からの要望を受け、さまざまな料理が楽しめるアラカルトを始めた。
その中で特に人気を博しているのが、なじみ客のリクエストから誕生した「黒毛和牛ハンバーグ」だ。まず驚くのがその大きさ。肉汁を閉じ込めるために5センチを超える厚さに成形。フライパンで表面に軽く焼き色をつけた後、オーブンでじっくりと火を入れることでやわらかく焼き上げているという。

黒毛和牛ハンバーグ

存在感のあるハンバーグは、デミグラスソースではなく、フランス・ゲランド産の天然塩をつけて味わうのがこの店のスタイル。「1口目は、何もつけずそのまま牛肉本来の味を。2口目からは、お好みで塩を2、3粒かけると肉の甘みがより際立ちます」と、オーナーシェフ。
箸を入れると、中からじゅわっと肉汁が溢れ出す。頬張ると口の中の温度でゆっくりと溶け始め、噛むことを忘れてしまうほどにやわらかい。

ハンバーグに使用する挽き肉は、ステーキにも使われる黒毛和牛だ。産地やブランドではなく、「枯らし」という日本の伝統的な方法で熟成させた肉にこだわって仕入れている。解体後すぐに冷蔵、骨が付いた枝肉のまま1、2か月保管するこの熟成法により、旨みが凝縮してくると、「和牛香」と呼ばれるコクのある甘い香りが立つ。
また、脂の質も変化し、1人前200グラムのハンバーグを女性でもペロリと平らげてしまうほど、あっさりとした口当たりになる。毎年春に行われる「北野をどり」の練習中には、昼食に差し入れられたハンバーグ弁当を食べたうえに、夕食にも店を訪れ、再びハンバーグをオーダーする芸舞妓もいるという。

花街に佇むまさに隠れ家的な一軒で、ボリューミーでありながら古都らしい品のある一皿に、舌鼓を打ってみてはいかがだろう。

上七軒 ゆう

住所:京都市上京区社家長屋町672-3

電話:075-466-6625

営業時間:11:30~13:30(L.O.)、17:30~21:00(L.O.)

定休日:月曜

黒毛和牛ハンバーグ3,500円(税・サ抜)

  • ランチはカード不可
  • 完全予約制
  • 新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。

*掲載情報は2020年6月号掲載時点のものです。

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澤井祐輝(アリカ)さんが綴るコラム【京都肉三昧】。今回は 「花街の秘かな愉しみ 熟成牛の「塩ハンバーグ」」。