古都の音色

17名の僧侶が勇壮に撞く
知恩院の「除夜の鐘」

文・新家康規(アリカ)

Text by Yasunori NIIYA (Arika Inc.)

「除夜の鐘」は人間が持つとされる108の煩悩を取り去るため、その数だけ鐘を撞くという仏教行事。大晦日の夜、京都では市内のあちらこちらから鐘の音が聞こえてくるが、なかでもひときわ低く重厚な音を響かせるのが、浄土宗の総本山・知恩院の鐘だ。

八坂神社や円山公園、平安神宮などにもほど近い、東山三十六峰のひとつ、華頂山のふもとに位置する知恩院。大小さまざまな伽藍が広がる敷地の一角に、日本三大梵鐘のひとつに数えられる大鐘が吊るされている。
直径約2・8メートル、重さ約70トンを誇り、戦時中に供出を迫られるも、あまりの大きさに運び出すことができなかったという逸話も残る。

知恩院の「除夜の鐘」

大晦日の午後10時40分頃から年が明けた元旦0時30分頃まで続く「除夜の鐘」の一番の見どころは、17名の僧侶が撞くダイナミックな光景だ。「えーい、ひとーつ」「そーれ」の掛け声と共に、全員が息を合わせ1分間に1打のペースで鐘を撞く。親綱を持つ1名の撞き手が鐘に背を向け、全体重が撞木(しゅもく)にかかるように仰向けの状態で鐘にぶつかっていく様子はまさに圧巻。

さらに撞木には16本の子綱が繋がれ、16名の僧侶が鐘楼の外から綱を引く。親綱・子綱を合わせた僧侶の数は、三門(国宝)の上層に安置される釈迦牟尼仏と十六羅漢になぞらえたものと言われている。一打一打に激しく体力を消耗するため、親綱の僧侶は3打ごとに交代する。
毎年撞き手を希望する僧侶は多く、12月27日に行う試し撞きによって選抜され、総勢25~30人の僧侶がその役を任される。「打つ直前に撞木を持ち上げるような気持ち」で撞くと、よい音になるという。

鐘の音は、浄土宗の開祖・法然上人の忌日法要である御忌(ぎょき)の時だけに響くものだった。現在のように大晦日に撞かれるようになったのは、1930年(昭和5年)から。実はNHKのラジオ放送がきっかけだったそうだ。

「阿弥陀仏のお力によって極楽浄土に往生し、煩悩を自力では払えないという浄土宗の教えでは、本来除夜の鐘を撞くことはありません。ただ現在は、鐘の音を聴く人々の“懺悔滅罪"(ざんげめつざい)と、きたる年の平安の願いを込めて鐘を撞いています。己の煩悩を自覚し、愚者であることに気づき、お念仏を称(とな)えるきっかけにしていただければ」と執事の南忠信師。
毎年約3万人が訪れるという知恩院の除夜の鐘。底冷えの街の空気を揺らす重低音の響きが、古都の一年を厳かに締めくくる。

浄土宗 総本山 知恩院

京都府京都市東山区林下町400

TEL:075-531-2111

*掲載情報は2018年12月号掲載時点のものです。

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新家康規(アリカ)さんが綴るコラム【古都の音色】。今回は「17名の僧侶が勇壮に撞く知恩院の「除夜の鐘」」。